菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

純なるネット世界の『舞台版 電車男』

電車男 舞台版 [DVD]

電車男 舞台版 [DVD]

電車男』における、電車男毒男たちの会話は熱い。物凄く熱い。熱気むんむんで、噎せ返りそうなほどだ。この熱さに似た衝動を、記憶の奥底から掘り返してみた。そうだ、この熱さは高校時代に経験した、学園祭の前日の様な熱さなのだ。祭りの本番が始まる前の、独特の熱気。あれに似ているのだ。怒号にも似た本音がぶつかり合い、時にコミカルであり、時にシリアスである世界観。まさに、青春である。
これまで、電車男は様々な形でメディアミックスされてきた。最初に書籍化され、続けて映画化、漫画化、ドラマ化、舞台化、朗読劇化…様々な形態で『電車男』は表現され、客の前に晒されてきた。これは、その中でも独特の世界観を描いていたように思われる舞台版を映像化したDVDである。僕はレンタルで鑑賞した。レンタル版は副音声が収録されていなかったため、本編のみの鑑賞ということになる。
とりあえず、最初の感想として…あのジャケット写真はどうにかならなかったのだろうか。電車男を演じる武田真治の見た目の変化を示したかったのだろうが、あまりの変化っぷりに、なんとなくジキルとハイドを彷彿とさせた。変身前の武田は生気が抜けきっているし、変身後の武田は結婚詐欺師みたいである。おかげでなかなか手を出せなかった。まったく…しかし、本編は非常に良い出来だった。電車と毒男たちの会話は、まるで更新ボタンを連打しているかのようにテンポが良く、非常に軽快だ。毒男たちを客観的に見つめるポジションにあるイケメンのポジションも、ネット世界に共感できない人でも入り込めるためのツッコミ役として、良い位置だった。本編は二時間以上の長編だったが、まるで長さを感じさせない。素晴らしい内容だったと思う。舞台に女性を上げなかったことも、毒男たちの男むさい世界を表現するのに役立っていた……と、ここまではmixiで書いた。NOT FOUNDでは、もうちょっと演出について触れておこうと思う。
『舞台版 電車男』は、七つの部屋によって構成されている。舞台の真ん中に電車男の部屋があり、その周りを本棚の様に六つの部屋が囲んでいる。更に舞台の背景には巨大モニターがそびえ、舞台では表現しきれない電車男の行動や、スレッドへの書き込み、七人の男たちの表情*1が映し出されるようになっている。ドラマ版電車男の設定を反映しているのではないだろうか。この舞台設定が、非常に良かった。
……と、ここまでベタ褒めしまくってきた『舞台版 電車男』だが、個人的にどうも気になった点が一つ。どうも、時間の経過が伝わりにくいのだ。ドラマ部分が電車男によるエルメスとの状況変化のみであり、それ以外の部分が殆ど省かれていることが、時間の経過を感じさせなかった理由ではないかと思う。この点に関しては、ドラマ版のほうが幾らか優秀だった。惜しいなァ……時間経過の要素を省いている時点で上演時間が二時間以上であることを考えると、それを盛り込むことは難しかったとは思うが……うーん、残念。しかし、それでも『舞台版 電車男』は優秀な作品だと思う。少なくとも僕は観ていてテンションが上がりまくっていたし、その喜怒哀楽の豊かな展開は楽しくて仕方なかった。うーん……購入を考えてしまう……。とにかく、良い出来だった。原作を読みたくなった……そういや、文庫版が出てたなァ……。
どうでも良いけど、キャストはこれで合ってるのか? 鈴木さんと河原さんが逆の可能性が……どうも人の顔を判別するのが苦手なんだよなァー。あと、余談。結局エルメスが送ってくれたカップって、どんくらいの価値があったんだろか……弱冠気になる……。おっと、もう一つ。他の『電車男』もそうだけど、どうして『電車男』が終わった後の毒男たちには変化が生じる、みたいな美談で終わるんだろうなあ。逆にうそ臭い……まあ、そういうモンなんだろうけども……うーん……。あとそれから、この舞台は毒男視線によって進められるためなのか、どうも電車が毒男たちを手の平の上で転がしているような、そんな印象を……いや、そういうのを言い始めたらキリが無いよナー。

*1:恐らくパソコンの上にカメラが置かれているのだと思う