菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

年の始めの『弩スピードワゴン』

弩 スピードワゴン [DVD]

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「小沢さん、来年から忙しくなるよ!」2002年の冬、数多くの漫才師たちが真剣に一年の間で最も真剣に漫才を披露するであろう場、M-1グランプリ。その敗者復活戦を勝ち抜いたコンビ、スピードワゴンのツッコミである井戸田潤が、それを制したということを知ってすぐに、相方の小沢一敬に伝えた言葉である。事実、スピードワゴンの名はあっという間に全国に知れ渡り、ゴールデンタイムに放送されている番組で彼らを観ることは、当たり前のことになっていた。その後、井戸田は女優の安達祐美と結婚し、芸人として更なる飛躍を見ることが出来る……と思えた。しかし実際は、どうも上手く行かない。彼らをテレビで見る機会はだんだんと少なくなっていった。そんなスピードワゴンの初単独ライブが行われたのが、2004年8月のこと。1998年から2004年の間に披露されたネタを再び演じたライブで、実質“ベストライブ”と呼べる内容になっていた(確か、公演の前にファンが観たいネタを募集していたと思う)。その次に彼らのライブ『超スピードワゴン』が行われたのは、2005年7月。ただし、このライブは通常のネタを披露するタイプのものではなく、いわゆる企画ライブだった。そして、2007年1月……『超スピードワゴン』からおよそ一年半ぶり、ネタライブとしてはおよそ二年半ぶりになる彼らの三度目の単独ライブ『弩スピードワゴン』が行われたのである。
収録内容は、最初と最後に漫才を据え置き、その間にコントや幕間映像を収録するというもの。なんとなく、吉本興業に所属する芸人の単独ライブを彷彿とする。そういえば、スピードワゴンも元々は吉本興業の芸人だ。その頃の名残なのかもしれない。一方で、コントにはゲスト出演者として今仁靖久(ビーム)と永尾宗大(コンツ)を迎えていたりする。このバーター的な傾向は現在の彼らの所属事務所ホリプロコムに多く見られるものであり、ある種“吉本とホリプロの融合”と呼べるものなのかもしれない。では、感想。
久しぶりに見たスピードワゴンは、以前よりも柔軟になった印象を受けた。以前の彼らには、まだ若手芸人特有の緊張感を持っていたように思う。それが今回は、そういった緊張がすーっと抜け、芸人として随分と余裕が見せられるようになった。特にツッコミの井戸田は、良い感じに気が抜けてきた。今までは抑えていた天然の一面を、隠さずになったのではないだろうか、と思う。いや、気のせいなのかもしれないが。とにかく、何か一つステップを越えたようだ。肝心のネタについては、玉石混合といったところ。得意の漫才は今もって絶好調で、まだまだM-1グランプリのチャンピオンを狙える程度の余力は十二分にあるようだ。一方のコントは、初単独の時に見せたような完成度の高いものではなく、肩の力が抜け切った内容になっていた。恐らく、コントが下手になったとかいうことではなく、ここは力を抜いていこうと決めていたのだろう。ちょっと残念ではあるが、そういうスタンスは否定すべきものではない。いずれにしても、そういった演目は非常に彼ららしいものに仕上がっており、彼らは相変わらず彼らのままだったということを確認できただけでも、良かったとしたい。そんな中、僕が見たことのない彼らの姿を確認することの出来た唯一のネタが、ボケの小沢一敬によるピンコント『絵本』である。このコントは、小沢が子供に読んで聞かせたい絵本を読み、その後で子供に読んでもらいたくない絵本を読むというもの。先に披露される絵本は、まだスピードワゴン色の強い内容である*1。しかし、この子供に読んでもらいたくない絵本が……凄かった。まず、タイトルが危ない。内容も危ない。オチも危ない。どういう意味で危ないのかというと、まあ……下ネタ的な意味である。M-1グランプリ立川談志に「下ネタ嫌いなんですよ」と酷評された彼らだが、当時よりもずっと下ネタ度数が上がっている。談志師匠にバレないように、じっくりと“下ネタ師スピードワゴン”としての能力を上げていってもらいたいものである。……いやいやいや。

・本編
「オープニングVTR」「漫才1(カッコいい兄貴になって相談に乗りたい)」「私は知っていた」「FLY ME TO THE MOON」「愛の代紋(VTR)」「絵本」「マイルール」「初めての告白(VTR)」「漫才2(二人の自伝)」「井戸田企画 ロシアンショットガン」(ゲスト:アンジャッシュ)
・特典
メイキング
・収録時間:本編84分+特典4分

*1:小沢が絵本の一節を読むたび、井戸田影ナレでそれに合った標語を読み上げるというもの