菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

笑魂!『3LDK』(我が家)

3LDK [DVD]

3LDK [DVD]

芸人のトリオにおいて最も重要なことは、メンバーの個性が強く、それでいて全体的にまとまりがあるということだ。例えばダチョウ倶楽部、例えばネプチューン、例えばロバート……過去の売れている芸人トリオを見ても、その法則に遵っていることが多い。その流れを考えると、我が家という芸人トリオはあまりにも……メンバー個人のキャラクターが弱い。しれっとした表情で思わぬ発言を連発させるナルシストな坪倉由幸、影は薄いが独特のズレたキャラクターを演じさせると絶妙な谷田部俊、そんな二人をパワフルにつっこんでいる杉山裕之。それぞれ、最低ラインを余裕で超えた笑いの技術力を持ち合わせているが、それぞれのメンバー個人だけを抽出すると、どうにもこうにもインパクトに欠ける。その為か、我が家のコントは妙に作り込まれている印象がある。それは勿論、我が家にとって初めての単独DVD『3LDK』に収録されているコントにも言える。
例えば、二本目に収録されている『教習所』のコントを見てみる。このコントは、運転免許教習所の教官である杉山が、生徒の二人の卒業検定として路上運転に出るというものだ。しかし、生徒の一人である谷田部は、教習車でMDを聴こうとしたり、煙草を吸おうとしたり、マイペースなことばかりをして杉山を困らせる。一方、もう一人の生徒(かなりナルシストのホストだ)である坪倉は、教習中に杉山を口説くような言動をとるため、やはり杉山を困らせる。一見、このコントは見た目にも強烈にナルシストさを印象付ける、坪倉のホストキャラクターが前面に出ているように見える。しかし、実際は見た目に何の演出も施していない谷田部のマイペースさを思わせるセリフの方が、ボケとしての個性が強い。既に見た目でホストの印象を与える坪倉に対し、まったくの素の雰囲気で登場する谷田部のキャラクターを、セリフだけで確立しているところに、我が家のネタの練られっぷりが見られると言える。ナルシストの坪倉、捻くれた言い回しの谷田部、パワフルなツッコミの杉山。この三つの要素が上手に合わさって、我が家という芸人トリオは出来ているようだ。
そのことがより明確に分かるネタが、三本目に収録されている唯一の漫才ネタ『プロポーズ』だ……と、その前にトリオ漫才について少し書こう。トリオ漫才といえば、昔はボーイズ*1が主だったが、ここ数年はせんたくばさみ(既に解散したが)・Bコース・にのうらご(ここも解散したが)など、いわゆるコント漫才をトリオでやることが多い傾向にある。その中において我が家は、最初に杉山が全体のネタのテーマを客に発表し(今回の場合は『プロポーズ』と言う)、そのテーマに沿った様々な職業の人を三人それぞれが演じるというショートコント形式をとっている。最初に杉山が回答例を提示し、その後で二人がボケるという流れを上手く作っているためか、一つ一つのボケがシチュエーションコントよりも、各自の個性を絶妙に引き出したものになっている。それでいて、漫才という形式ならではのテンポの良さを活かしたスタイルで、実に上手い。
最初にも書いたが、我が家というトリオは個性が弱い。しかし、そのネタは非常に作り込まれている。今後もネタを作りこんでいけば、そのうちキャラクターの個性が、各メンバーにも沁み込んでいくのではないだろうか、と思う。コンビ結成2003年、早熟のトリオは何処へ進んでいくのか。その更なる成長を、楽しみながら眺めていきたい。

・収録内容
『ガソリンスタンド』『教習所』『プロポーズ』『三者面談(デビュー時ネタ)』『ラーメン屋』
・特典映像
『我が家の我が家訪問』★杉山編 ★谷田部編 ★坪倉編
・収録時間:24分+特典27分

*1:楽器を取り入れた漫才師のこと。最近ではポカスカジャンが有名か