菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

麒麟さんが好きです。『キリン!キリン!キリン!』

キリン!キリン!キリン! [DVD]

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僕が初めて見た麒麟のネタは、多くの人がそうであったように、M-1グランプリ2001での漫才だった。ただ、その当時の僕はまだ麒麟というコンビを意識してはおらず、コンビとして彼らを初めて確認したのは、それからおよそ半年後の2002年5月に放送された爆笑オンエアバトル未勝利戦での漫才だったと思う。当時の彼らは、川島の独特の発想を武器にした漫才を披露しており、いつの放送だったかは忘れたが、「一個多かったチキンナゲットを店に返しに行く」というネタと「勇気検査」というネタが、妙に印象に残っている。しかし、その発想はだんだんと姿を見せなくなっていく。それが、ちょうどM-1グランプリ2003の頃だった。2001以来の決勝進出として注目された彼らだったが、結果はブービー。彼らは今後、どうなってしまうのか! ……そんな状況から、8ヵ月後に行われた単独ライブ『キリン!キリン!キリン!』M-1グランプリ決勝まで5ヶ月というこの時、彼らはどういう面持ちで舞台に臨んだのか。
『キリン!キリン!キリン!』は他の吉本系漫才師の例に漏れず、「オープニング→漫才→コント数本→漫才」という構成になっている。どういうわけか、他の吉本芸人の単独ライブも、基本的にこの構成を取っている。理由は分からないが、ライブの入り口と出口に漫才が適切である、ということなのだろう。今回のライブで麒麟が披露している漫才は『僕らの大人計画』『麒麟のスポーツ大賞?』の二本。『麒麟のスポーツ大賞?』は、M-1グランプリの決勝でも披露されていたものだったように記憶している。どちらの漫才も、当時から行われていた「川島のボケに田村が惑わされる」という形態が取られており、あまり大きな成長は見られない。このスタイルをあえて崩したから、この年のM-1では最終決戦まで戻れたんだよなあ……と思うと、なんだか切ない。
一方のコントも、やや控えめな印象。入居者である田村を不動産屋の川島が独自の発想で追い出そうとする『山野不動産』、どうでも良いことで田村が川島演じる死神に命を狙われる『魔の契約』、生と死の間でさまよっている二人を描いた怪作『ごめん』……いずれもコントとしては秀作なのだけれども、どこか川島の持つ発想が吐き出されきれていない感がある。そして、思う。そうか。今の麒麟の漫才に満足できないのは、時間の経過に比例して、川島の発想が控えめになっているからなのだ。だから、M-1でも優勝できないままでいる。
例年のM-1グランプリのチャンピオンを見てみよう。例えば、チュートリアルは徳井の変態気質なところを隠さず、徹底的にネタに盛り込んでおり、それが笑いになっている。フットボールアワーは岩尾の大胆な発想をじゃんじゃん漫才にブチ込んでいるし、ブラックマヨネーズはボケとツッコミがガチンコでぶつかりあっている。しかし、麒麟は……もうちょっと、漫才師としてアピールできる要素が少ない。川島の低音ボイス・田村の貧乏エピソード、いずれも特徴的ではあるが、漫才師としてはちょっと物足りない*1。そこで生かすべきは、川島の発想である。ここで川島が、オンエアバトル初期に見せていた独自の発想を、とことん漫才やコントにぶつければ、彼らの漫才も少しは変わる……と思うのだが、どうも今の川島のボケは、ちょっと控えめになっている
今の麒麟に足りないのは、スベることを覚悟したうえで自らを曝け出す大胆さだ。この単独も、そういった大胆さがもうちょっと足りない。或いは、大胆さをあえて消すというのも、一つの作戦にはなるかもしれないが……いずれにしても、今の麒麟はちょっと中途半端なポジションにいる印象がある。もっと高みを目指すために、今年のM-1では一味違った彼らを目撃したいところ……って、最近の麒麟のネタは知らないんだけどね。印象で無責任に語りすぎだなあ。次は『キリリン』を見よう。うん(苦言しといて逃げる卑怯者)。

・内容(120分/以下ネタのみ記載)
『漫才:僕らの大人計画』『コント:山野不動産』『コント:川島17号』『コント:魔の契約』『コント:ヒガシ西日本日本警備保障株式会社』『コント:ごめん』『漫才:麒麟のスポーツ大賞?』
・特典映像(11分)
『麒麟プロフィール』『メイキングオブ「キリン!キリン!キリン!」』『麒麟特製辞書即興曲アルバム』『おまけ』
・麒麟による副音声(漫才ネタ除く)

*1:特に田村の貧乏エピソードに関しては、田村がボケでなくツッコミであるため、漫才には今一つ生かせないでいるし。