菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『Rahmens 0001 select』上

Rahmens 0001 select [DVD]

Rahmens 0001 select [DVD]

  • DVD解説
    • 1996年にコンビを結成したラーメンズが、『home』から『雀』までに披露されたコントの中でも、人気のある演目をまとめた、ベスト版DVD。なお、各コントは公演で行われたアンケートによって決定されている。収録されているコントは全十本。収録時間113分。特典無し。ただし、ジャケットの裏に秘密が。現時点では入手困難な『home』『FLAT』で披露されているコントが収録されているため、VHSを所持していないラーメンズファンには重宝されている。
  • 『無用途人間』(from「home」)
    • 人間は生まれながらにして、なにかしらの役割を担っている。子供は遊ぶ、学生は学ぶ、労働者は働く……という風に。もしも、そういった役割が無くなってしまったとき、人はどうなってしまうのだろうか。あらゆる縛りから解き放たれて、とても楽な気持ちになるのかもしれない。しかし、すぐに自分の存在が世間から捨てられたものになったのではないかと思い、不安に陥ってしまうのではないだろうか。このコントに登場する無用途人間は、まさに自らの存在価値を見失ってしまい、その存在意義を探し続けている人間だ。普通の人間ならば、それでも自分に都合の良い答えを編み出し、それで納得してしまうだろうが、彼らは誰かに役割を与えられなくては、何も出来ない不器用な人間だ。そんな不器用な二人が最後に発した言葉がとても切ないのは、純粋で愚直な彼らの姿がいとおしく、物悲しいからだろう。
  • 『読書対決』(from「home」)
    • 人間とは、戦いが好きな生き物である。これは戦争などの大規模な例を出さずとも、分かりきっていることだ。例えば、僕らは自分の好きなミュージシャンの偉大さを表するために、他のミュージシャンを貶めるようなことを当然のように行っている。それが最終的に、他のミュージシャンのファンとの争いを生むことになるにもかかわらず。このコントは、自らの持つ書籍の内容を相手の書籍の内容と競うという、なんとも非生産的な戦いの様子を描いたものだ。彼らは最終的に、自らの書籍の優秀さを相手に見せ付けるために、内容を破綻させてまで戦いを繰り広げようとする。それは客観的に見ると非常に滑稽だ。しかし、彼らのやっていることは、いわゆる戦争のそれと殆ど変わらないようにも思える。このコントの持つ下らなさは、争いの持つ下らなさと等しいのかもしれない。ただ、このDVDに収録されているバージョンは、パロディ性と不条理性が優っており、その要素がやや薄い。個人的には、news篇を収録したほうが良かったのではないか、と思う。
  • 『縄跳び部』(from「home」)
    • ラーメンズの頭脳、小林賢太郎は「日常の中の非日常ではなく、非日常の中の日常を描く」という台詞を『アトムより』というコントの中に記しているのだが、この言葉は、ラーメンズのコントそのものを表しているとされている。つまり、実際には存在しない事物を、当然のように存在するとされている世界を構築しているのが、ラーメンズ的コントなのだ。そして、それはこの『縄跳び部』における、実在しない縄跳び競技と、それを真面目にやっている青春っぽいやりとりは、まさにラーメンズ的コントの基本的な構図、そのものである。しかし、それだけでは不安だったのか、このコントではわらべ唄をパロディするという要素が前面に出されている。そのナンセンスな内容は言うまでもなく素晴らしいが、それ以上に、縄を使った意外で手堅い着地点に驚かされる。
  • 『バースデー』(from「鯨」)
    • 誕生日を一人で祝うことになったと思っていた男の下に、友人が謎の紙袋を片手にやってくる……という、ストーリーだけを見るととてもシンプルな内容のコントだが、その台詞を別録りした台詞に補ってもらい、演者が台詞に合わせてパントマイムを行うというところに、このコントの独自性がある。通常、ラーメンズのコントは完成された台詞とそれを補うマイムによって成立しているが、このコントはマイムが先行しており、他のラーメンズ的コントとは一線を引いたものになっている。また、その台詞も演者の心の声を言語化したものであるため、通常のコントよりも情報量が遥かに多いのも、このコントの特徴の一つだ。これより以前の公演『椿』に、小林の心の声を片桐が演じる『心の中の男』というコントがあったが、この『バースデー』は、それを進展させたものと言えるのかもしれない。
  • 『ドラマチックカウント』(from「椿」)
    • 世の中には、日常に溶け込んでしまっているモノが数多くある。例えば、あいうえお。僕らは学校の授業か何かで「あいうえお」という言葉の並びを知っているが、それがどうして「あいうえお」という並びになっているのかは知らない。恐らく、そうやって並んでいる有様を、当たり前のものとして受け入れているからなのだろう。では、そこに無理やり意味をつけてみたら、どうなるのか。それをやってみたのが、このコントだ。しかし、このコントの本当に凄いところは、そこではない。本当に凄いのは、こういうネタを作れば客が笑うと思いついた、その発想だ。先の『縄跳び部』もそうだが、人間はどうも「意味の無いものに意味を生む」、もとい「繋がっていない点が線になる」状態に、感動と笑いを覚えるらしい。そういうスタイルの笑いとしては、このコントは近年のあらゆるコントの中でも最優秀作品と言えるかもしれない。ただ、このコントはその「意味の無いものに意味を生む」ことのみにこだわっているためか、そのオチを客が知ってしまった瞬間、力を一気に弱めてしまうところがある。一発勝負の舞台ならではのコント、と言えるのかもしれない。