『フキコシ・ソロ・アクト・ライブラリー』から見る、二人の奇才。
フキコシ・ソロ・アクト・ライブラリー吹越満「XVIII」 [DVD]
- 出版社/メーカー: コロムビアミュージックエンタテインメント
- 発売日: 2007/10/24
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小林賢太郎のコントに対する情熱は、言わずもがなのことだろう。ラーメンズを結成して十数年、小林賢太郎は、これまで大衆向けに放送されていたコントを芸術品のレベルにまで高めるという功績を残し、今現在も更なる高みを目指すように、斬新でおかしなコントを創作し続けている。一方の吹越満も、また然り。今回のライブでも、これまでに観たことがない、斬新な舞台を繰り広げている。
例えば、タイトル映像直後に披露された演目『逆パントマイム』。これは、無いモノが在るように見せるパントマイムとは真逆、その名も“逆”パントマイムを吹越が演じるというもの。どういうことをするのかというと、まあ、簡単に言うと在るモノを無いように見せるのだ。教卓の上にパイプ椅子が乗っているけれど、乗っていないように教師を演じる。砂浜にベッドが置いてあるのだけれど、置いていないように女性と戯れる。ハイセンスな匂いを醸し出しているのに、やっていることはバカバカしい。これもまた、小林賢太郎との共通点の一つと言えるかもしれない。
この小林と吹越の最大の違いを観ることが出来る演目もある。ライブの終盤で披露された作品『Substitute Character〜当て字〜』である。これは、カタカナの言葉を無理やり漢字に置き換え、そうして生まれた言葉に合ったショートコントを吹越が演じる、というものなのだが……最初は「ボーイ」「ドクター」など、日常でも目にする機会の多い言葉が誤変換されているのに、それらはだんだんと「セッ○ス」「ク○トリス」「ダッチワ○フ」の様に、口に出すのも憚られるような言葉に傾いていく。しかし、それらの言葉が持つタブー的違和感は、吹越がコントを展開させていくたびに薄れていく。いや、会場全体にそれらの言葉を当然のモノとして受け入れる雰囲気が浸透していく、と表現したほうが正しいのかもしれない。少なくとも、今の小林賢太郎には、こういうスタイルは真似できないだろう。小林の世界には下ネタも存在するが、それ自体を直接的に表現することによって生まれる違和感を、今の彼が好まないからだ。
この二人の最大の違いは、その舞台に対する熱意の温度だ。小林の持つ温度は、とてつもなく高い。完成された脚本を仕上げ、その脚本に見合った演出を手がけ、演者へも的確に指示を出す。客を入れる以上は、ちゃんと客が満足できるものを手がけ、その上で自らの満足できるものをその中に含ませる。そんな完璧主義者の熱意に対し、吹越の温度はヌルい。客を満足させようという意欲よりも、自らが演じたいことを優先しているような、そんなフリーダムな熱意だ。例えるなら、小林は客を「こちらへどうぞ」と誘うタイプで、吹越は客に「ついてこいよー!」と呼びかけるタイプだ。恐らく、この違いは二人のバックボーンが関係している。
小林賢太郎は、プロの芸人になるより以前に、手品グッズを実演で販売するバイトを行っていた*1。この当時の経験により、小林には「客を惑わすエンターテイメント」という考えが根付いたのではないだろうか。一方の吹越満は、ソロで公演を行うより以前に、過激な笑いで人気のWAHAHA本舗に所属していた。その当時の経験によって、吹越には「客を惹きつけるエンターテイメント」としての手腕が磨かれたのではないだろうか。……まあ、全ては想像でしかないのだが。
最後に余談。個人的に今回のライブで最も衝撃を受けたのは『眼鏡と帽子の男達』という演目。吹越が四人の男達を一人で演じる、というものである。……これだけの説明だと、ラーメンズの『レストランそれぞれ』的なものかと思われるかもしれないが……いや、あれは言葉では表せない凄さだった。ラーメンズ、シティボーイズ、イッセー尾形、なんかそこらのヘンテコな笑いが好きな人は、是非。
・本編(約98分) 『開演前』『お礼のパレット』『タイトル』『逆パントマイム』『スタンダップ・コメディ』『PROPS』『PROPS 2』『線上の都合』『眼鏡と帽子の男達』『Substitute Character〜当て字〜』『終わりのパレット』『Flying Screen』 ・特典映像 『ボツネタコーナー』『メイキング・オブ・タイトル』『スタッフ・ロール-reprise-』