菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

笑魂『オジンオズボーン「やんちゃ漫才」』

笑魂シリーズ オジンオズボーン「やんちゃ漫才」笑魂シリーズ オジンオズボーン「やんちゃ漫才」
(2008/07/23)
オジンオズボーン

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ますだおかだアメリカザリガニといった正統派漫才師が在籍している芸能事務所松竹芸能において、その後継と言える程の実力を持った漫才師は、彼らが若手芸人としての時期を終え、いわゆる中堅芸人としてのステップを踏み出している現在においても、未だ不在であると言わざるを得ないだろう。それは別に、現在の若手がだらしないということを意味しているわけではない。ただ、単にますだおかだアメリカザリガニの漫才師としての手腕が、いわゆる若手と比べて圧倒的に高すぎるだけの話だ。

しかし、結局のところ、それが現在の若手にとっての障壁となってしまっていることは間違いないだろう。事実、松竹芸能に所属する若手漫才師には、それなりに実力を持ったコンビも少なくないのだが、いずれも、それほど評価されてはいない。例外として、変化球である安田大サーカスがバラエティ番組等で評価されてはいるが……ますだおかだアメリカザリガニの登場によって生じた壁は、かなり分厚いようだ。

篠宮暁(ボケ役)と高松新一(ツッコミ役)によって結成されたオジンオズボーンも、そんな若手漫才師の一組だ。ますだおかだアメリカザリガニほどではないが、しゃべりの技術は他の若手と比べてもかなり高く、そのネタのクオリティから言って、松竹若手のホープだと言っても過言ではない。コンビ結成九年目(1999年結成)でありながら、ともに二十代とかなりの若手で、売り出しかたによってはキングコングの対抗馬にも成り得ただろう。

しかし、現在に至るまで、彼らは売れていない。若手芸人を紹介する番組『BICK-UP!』で司会のおすピーに気に入られる(2001年)、深夜の若手コント番組『10カラット』のレギュラーに選ばれる(2005年)、『爆笑オンエアバトル』のチャンピオン大会でファイナルに進出する(2008年)等、それまでに売れる機会には何度も巡り合っているのに、彼らは売れていない。その背景には様々な要素があるのだろうが、想像するに、彼らが漫才師として突出した個性を持っていないことが、その理由なのではないかと推察される。

 

本作に収録されている九本のネタは、まさに彼らが漫才師としての個性を追い求めた結果であり、記録だ。高松の一定の動きを利用して篠宮がボケまくる『ツッコミ』、妙なタイミングで二人が唇を交わす『ラブコント』、普段はツッコミ役である高松がボケてみる『ベタしょーもない』……いずれも実験的なネタばかりで、まだまだ彼らの持ちネタにはなりきれていない。しかし、その揺ぎ無き向上心の持つ美しさを否定することは、僕には出来ない。

松竹芸能には、テレビで売れ損なっている芸人も少なくない。近年、『爆笑レッドカーペット』への出演をきっかけに売れ出したTKOの様な例外もあるが、その多くは、全国的に売り出されることもなく、淡々とした活動を続けている。果たして、オジンオズボーンも彼らと同じ道を歩むことになるのか。それとも、ふとしたきっかけで全国的に有名な漫才師となりうるのか。実力はある彼ら、あとは運が向くのを待つばかりである。

特典映像には、高松が東京のキー局にオジンオズボーンをアピールして回る「東京キー局マラソン」が収録されている。あくまでネタとしてやっていることだが、その姿はまるで昔ながらのドサ回りの様で、今の時代に見ると、弱冠の切なさを感じる。松竹芸能よ、どうか彼らを売り出してくれ。まだ、彼らが若さを武器に出来る、今のうちに。


・本編(36分)

『漫才「ワル」』『漫才「ツッコミ」』『ショートコント「ジャンケン」』『漫才「ヒーロー」』『ショートコント「ラブコント」』『漫才「ベタしょーもない」』『漫才「流れ星」』『ショートコント「プール」』『漫才「京都の女の子」』

・特典映像(24分)

「東京キー局マラソン」