菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

笑魂『狩野英孝の生まれつきイケメンです』

笑魂シリーズ 狩野英孝の生まれつきイケメンです笑魂シリーズ 狩野英孝の生まれつきイケメンです
(2008/07/23)
狩野英孝

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お笑いブームに二度目の波がやってきた。『爆笑レッドカーペット』を中心としたショートネタブームが、その波だ。それ以前のお笑いブームは、とにかく若手と呼ばれている芸人たちがそれまでに蓄積してきたネタを、まるでそれが無尽蔵であるかの様に漏洩しているだけのものだった。しかし、このショートネタブームは、その芸人の数を増大させる代わりにネタの漏洩を極力抑え、その表面的な部分のみを視聴者に提供するという、一見すると非常に贅沢だが、その実、とても省エネ的な策略を取っている。

これは、いわゆる“実力派”と呼ばれている芸人にとっては、非常に有利な流れが出来ていると言えるだろう。彼らは自らの芸の僅かな部分だけをエサにして、その深淵を覗きたいという欲望に囚われている人々を釣り上げ、自らの貯蓄とすることが出来るのだから(ただ、その為に本来のネタを短く改編するという手間は掛かるが)。一方で、“キャラクター”にこだわった芸人にとっては、とても厳しい時代になってきていると言えるだろう。何故なら、彼らはそのキャラクターをテレビに提供することによって、キャラクター自体が激しく消費されてしまい、最終的に飽きられてしまう可能性が高いからだ。

もちろん、過去にも“キャラクター”にこだわった芸人は数多く存在している。近年の例で言うならば「ダンディ坂野」「パペットマペット」「長州小力」などがそうである。彼らもまた、テレビという消化器系メディアにおいて一気に消費され、テレビから姿を消していってしまった面々である。ただ、彼らには長年の舞台活動で培われてきた“舞台の腕力”がある。近年のぽっと出とは、内に隠された筋力が圧倒的に違うのだ。

狩野英孝は、ショートネタブームの中で、まさにぽっと浮かんできたような芸人だ。2003年にピン芸人としての活動を開始し、そのナルシストなイケメンキャラが評価され、近年はネタ番組以外のバラエティ番組にも、ちょくちょく顔を出すようになってきている。所属している事務所は、マセキ芸能社ウッチャンナンチャン出川哲朗らが在籍している、やたらと若手ピン芸人が多く所属している事務所だ。

狩野英孝のコントは、往々にして自らのイケメンキャラを題材とした、シチュエーションコントである。かつて、ザ・ドリフターズが『もしも○○が××だったら』というコントを頻繁にテレビで披露していた時代があったが、狩野のコントは『もしもイケメンが××だったら』という設定に絞られていると言えるだろう。繰り出されるギャグも、その多くがイケメンキャラを反映したものだ。「ラーメン、つけ麺、僕イケメン!」というギャグは、バラエティ番組でも披露される機会が多いので、ご存知の方も多いことだろう。狩野のコントにおけるボケは、大体がそういう類いのものだ。

イケメンキャラにこだわる姿勢は決して悪いことではない。そのキャラクターを掘り下げていくことが出来れば、バラエティ番組での利用価値も一気に上がることだろう。しかし、狩野はあまりにも早く注目されてしまったため、キャラクターを掘り下げる作業が未熟なままだ。結果、狩野は表面的なイケメンキャラを、テレビによって急激に消費されてしまうしかなくなってしまっている。なんとなく、ちょっと前の西岡純子を思い出す。まあ、女王様的なルックスからくるギャップだけで漫談を正当化していた西岡と、あくまでもイケメンキャラにこだわったコントを繰り広げる狩野とは、その方向性の時点で大きな差があるが……。

これから先、狩野は二つの選択を迫られることだろう。ひとつは、バラエティタレントとしての立ち回りを理解し、芸人としての枠を脱すること。もうひとつは、一旦テレビから姿を消して、舞台活動などでナルシストなイケメンキャラに磨きを掛けること。コント愛好家としては後者に進んでもらいたいところだが……果たして狩野は、どちらの道を進むのか。

ちなみに。過去にマセキ芸能社所属のピン芸人やまもとまさみパッション屋良アントキの猪木)がコンテンツリーグから発売したDVDは、そのいずれもが無観客状態でのネタ見せとなっているが、本作もまた、無観客状態でのネタ見せとなっている。マセキ、そんなに金が勿体無いのか?


・本編(40分)※特典含む

<待ち合わせ>『教習所』<ドライブデート1>『同窓会』<ドライブデート2>『ラーメン屋』<公園デート>『タクシー』

<カクテルデート>『占い』<ラーメン屋デート>『眼科医』<ダーツデート>

・特典映像(※幕間に収録された映像を一まとめにしたもの)

狩野英孝とバーチャルデート」