菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『百式2008』(2丁拳銃)

百式 2008 [DVD]百式 2008
(2008/11/19)
2丁拳銃

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お笑いの世界には、これが正解というものがない。老若男女に受け入れられるような笑いもあれば、マニアックな層にだけウケる笑いだってある。どちらが正解ということはない。ネタを見せる芸人がいて、それを望む観客がいれば、それでもはや正解なのである。

とはいえ、以前にマニアックな笑いを生み続けていた芸人が、急に大衆向けの笑いを作り出したりすると、やはり観客は追いつかない。対応しきれない。だから、その芸人の腕が落ちたのかと勘違いしてしまう。最近、アイツの腕は落ちちまったなあ……と、間違った認識を持ってしまう。どれだけ、その状態を客観視できるかどうかで、その認識は大きく変わってくる。

ここ数年、僕は2丁拳銃の『百式』に対して、「マンネリ化している」という認識を持っていた。以前に比べて、ネタの個性は控えめになっているし、印象に残るネタの多くは過去のライブで使い回してきた定番ギャグばかり。正直、2丁拳銃は漫才師とて、長い停滞期に突入してしまったとさえ思っていた。

しかし今回、その認識を改めることにした。このところの2丁拳銃が『百式』で試みているのは、ひとつひとつのネタの個性を突出させることではなく、むしろ、その個性を控えめにすることで、『百式』全体の空気をなだらかなものにしようとしているのはないか、と考えたわけである。それなら、2005年以後の『百式』における、緩やかな笑いへのシフトチェンジにも納得が行く。『百式』は個性的な漫才の集合体ではなく、『百式』という一つの完成体なのだ。

その完成体の中で披露されている漫才は、もはや漫才としての形体を残していない。本来ならば崩されるべきではないボケ役・ツッコミ役の立場は縦横無尽に入れ替わり、川谷は時に暴言を吐き、小堀はそれに戸惑いを隠せない。以前の様なスピード感は無いが、緩やかに、とても緩やかに、漫才の世界は狂い始める。

今年、オリエンタルラジオは『才』で約八十分間の疾走を世間に提示した。一方の2丁拳銃は、この『百式2008』で約百分間、決して急がず、決して焦らず、自らのテンポで漫才を披露している。コンビ結成十五周年の今年、彼らは早くもベテランの域を目指し、その歩みを進めている。


・本編(102分)

「オープニング漫才」「オリンピック漫才」「絵描きうた漫才」「昔話漫才」「健康漫才」「妖怪漫才」「ゾンビくん漫才」「怪獣コホラ漫才」「趣味漫才」「寿司屋漫才」「海賊漫才」「フンコロガシ漫才」

・特典映像(18分)

「今までの百式」(15分間で百式を振り返る)