菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

笑魂『ナイツのヤホーで調べました』

笑魂シリーズ ナイツ 「ナイツのヤホーで調べました」 [DVD]笑魂シリーズ ナイツ 「ナイツのヤホーで調べました」 [DVD]
(2008/12/03)
ナイツ

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M-1グランプリ、決勝。多くの若手芸人たちが、そのステージに立つことを願い、奮闘しているということは、もはや周知の事実だ。しかし、その舞台に立つことが出来るのは、敗者復活戦の勝者(ワイルドカード)を除くと、たった八組だけだ。2008年12月、その限られた八組のうちの一組として、ナイツが選ばれた。

既に『爆笑レッドカーペット』などの番組でその芸風が知られ、「漫才新人大賞」「お笑いホープ大賞」「NHK新人演芸大賞」など、数々の賞を受賞していた彼らが、M-1グランプリ決勝の舞台に立つことが出来たというのは、当たり前の結果であったと言えるのかもしれない。しかし、これまで西高東低だと言われていたM-1グランプリの舞台において、関東系の演芸場を中心に活動しているナイツが結果を残せたということは、やはり改めて評価されるべきことだろう。

ナイツの漫才は、一般的に『ヤホー漫才』と呼ばれている。ボケ役の塙が、検索サイト“ヤホー”で調べてきた事物について間違った説明をし、それをツッコミ役の土屋が、説明のジャマにならない程度にツッコんでいくという漫才だ。昔なら「辞書」が用いられていたところに「検索サイト」という言葉が入っているあたりが、なんだか現代的で興味深い。思えば『ヤホー漫才』のスタイルは、本を持たない“読み物漫才”と言えるのかもしれない。

ところで『ヤホー漫才』には、どうも『爆笑レッドカーペット』などの番組で披露されているショートバージョンと、今作に収録されているようなロングバージョンの、二種類のバージョンが存在しているようだ。ショートバージョンは御存知の通り、短い時間の中で淡々と塙が間違え続け、それにひたすら土屋が追っかけツッコミを展開させていくもの。これがロングバージョンになると、漫才のテンポがゆったりと観客に聞かせるものになるだけではなく、話を異常に脱線させたり、説明の間違いをマニアックなフレーズ(主に野球ネタ)に統一してみたり、逆にまったく間違えずに展開させてみたりと、かなり凝った趣向を加えている。知っている人には今更かもしれないが、彼らの漫才は短くカットされたものよりも、じっくりと長い時間をかけたもののほうが圧倒的に面白く、かつ味わい深い。現在はショートネタブームに合わせているためか、ショートバージョンをテレビで見かけることが多い。いつの日か、当たり前の様にロングバージョンが見られるようになってくれれば良いのだが。

ただ、ひとつだけ気になったことがある。それは、ロングバージョンの『ヤホー漫才』には、尋常ではない数の下ネタがさりげなく組み込まれているという点だ。観客に大人が多いだろう演芸場を主戦場としていることが、少なからず関係しているのかもしれない。しかし、それにしても多い。「インポテンツ」「インラン」「イチモツ」などのフレーズが、ポンポン飛び出してくる。うっかり家族で一緒に観ていると、ちょっと気まずい空気になってしまうかもしれない。まあ、それも一興か。

また、今作の特典映像には、ナイツの通常のしゃべくり漫才『野球漫才』が収録されている。野球のみにこだわった形式でありながら、その構成と話術によって、決してマニアックになりすぎない内容となっている。『ヤホー漫才』とは違い、コンビ同士のじんわりとした掛け合いが面白く、漫才師としての技術力の高さを改めて感じさせられる漫才だった。

2008年12月21日。キングコング笑い飯らとともに、M-1グランプリ2008決勝の舞台に立つことが予定されているナイツ。そこで彼らが、過去最大級の笑いの渦巻を起こすのか、それとも波風一つ立たない静寂の海を再現するのか。今の時点から、それを予想することは難しい。ナイツの漫才は確かに素晴らしいものではあるが、それがイコール、M-1グランプリという特殊な舞台においても通用するということにはならないからだ。これまで、M-1グランプリ決勝の舞台では、東西を代表する多種多様な若手漫才師がネタを披露している。しかし、いわゆる東京の演芸場を主戦場とする漫才師が決勝の舞台に立ったことは、未だかつて無い(唯一、テツandトモがイレギュラー的に「なんでだろう」を披露したくらいじゃないだろうか)。そんな未知のステージで、ナイツはどのような戦いを見せるのか。優勝するにせよ、しないにせよ、良い漫才を見せてくれることを期待する。

ところで、単独ライブ『21世紀大ナイツ展』は、いつDVD化されるのだろうか。これまでのナイツ漫才の歴史を振り返る内容になっているということを知り、俄然、観賞意欲が湧いてきてしまったのだが。しかも、作・構成には内村光良の従兄弟で放送作家の内村宏幸が参加しているという。ああ、観たいなあ。行け、ナイツ! 今の勢いで優勝を捥ぎ取り、一刻も早く単独ライブDVDをリリースするのだ!(欲望剥き出し)


・本編(41分)

『スーパーアイドルグループ』「浅草紹介1」『有名な映画監督』「浅草紹介2」『日本の人気球団』「浅草紹介3」『80年代のスター』「浅草紹介4」『野球がすごい上手い人』「浅草紹介5」『夏を代表するバンド』

・特典映像(7分)

『野球漫才』