菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『サンドウィッチマンライブ2008 ~新宿与太郎行進曲~』

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(2008/12/10)
サンドウィッチマン

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サンドウィッチマンのコントは、さまぁ~ずの亜流だ。伊達のツッコミが三村ツッコミをテンプレートとしていることは明らかだし、富澤が時たま繰り出す言葉遊び的なボケも大竹の世界観を踏襲している。ただ、さまぁ~ずがその場の雰囲気でどんどんアドリブを加えていく、テキトーと言っても過言ではないほどに自由な世界を、その場その場で構築しているのに対し、サンドウィッチマンは台本に対して非常に真面目だ。たまにアドリブを組み込むことがあるが、それも決して突発的なものではない。

それ故に、さまぁ~ずはコントしか出来ないが、サンドウィッチマンはコントも漫才も出来る。漫才において、アドリブは非常に重要な要素ではあるが、さまぁ~ずの言うなればモヤモヤとしたアドリブは、話術でその多くを演出する漫才というスタイルには不適切であるためだ。彼らのアドリブは、多くの小道具や演出が施されているコントという舞台だからこそ、しっかりと映える。一方のサンドウィッチマンは、アドリブが少ないという弱みはあるものの、その世界観を台本通りにキッチリとこなせる。そう考えると、こういう言い方はどうかと思わなくもないが、サンドウィッチマンは“マジメさが見えるさまぁ~ず”と言えるのかもしれない。

また、サンドウィッチマンにあってさまぁ~ずにはない要素として、サンドウィッチマンのコント世界には全体的にダウナーな空気が漂っているという点が挙げられる。そのことは、2007年の単独ライブを見れば、漫才で富澤演じる外国人が「Kill」を連呼していたことや、コント『ピザ屋』のオチで店長がピザにトッピングされるというカニバリズム臭の漂うものだった等のことから、容易に察することが出来るだろう。ブラックユーモアとまでは言わないが、どことなく殺気立った雰囲気。それがサンドウィッチマンの個性であり、武器だった。

しかし、今回の単独ライブでサンドウィッチマンは、その殺気を随分と抑えているように感じた。少なくとも、前作ほどに過激なボケは見られなかったように思う。M-1グランプリ2007での優勝により、この一年で知名度を急激に上げたことが、ひょっとしたら原因なのかもしれない。知名度が上がるということは、以前よりも多くの観客を相手にするということであり、それ故に、多くの人に見せることを配慮したネタ作りを無意識のうちに始めてしまうということが考えられるからだ。ただ、過激なボケが少なくなった一方で、下ネタの数が急増していたことも興味深い。過激ボケを押さえられたことで生じたフラストレーションが、下ネタとして浮き出てきたのではないだろうか。邪推だが。

そういう意味で、今作はちょっと物足りない。サンドウィッチマンコント師としての腕はなかなかだが、そもそもの持ち味であるダウナー感が弱まってしまったネタに、以前ほどの魅力は感じない。カベにめりこんだ感じになっている富澤が異様な『ラヴホテル』とか、伊達がボケ役に転じる『怪我した男』とか、前作にも似たような名前で登場した『哀川調』の様に、如何にも単独ライブらしいネタもあったのだが……。

たまに、M-1グランプリで優勝できない漫才師たちが、「M-1グランプリに囚われた漫才師」というように評されているのを見かける。その表現を借りるのであれば、サンドウィッチマンの場合、逆に優勝したことによってM-1グランプリに囚われてしまったと言えるのではないだろうか。少なくとも、M-1優勝以前の彼らの方が、芸人として自由にネタを見せていたように、僕は思う。

来年の彼らの動向に注目したい。

余談。特典映像に収録されている「富澤vs酒」は、ライブ中に上映された幕間映像らしい(とあるネタで、明らかにこの映像を意識したボケを富澤が発している)。こういう幕間映像は、出来ればネタとネタの間に収録してもらいたい。ここで言っても仕方ないけど。


・本編(約74分)

『聞き込み』『オープニング』『漫才(煙草を注意・テレフォンショッピング)』『メガネ』『ラヴホテル』『怪我した男』『美容院』『哀川調』『特別企画「年越しそばの出前」』『エンドロール』

・特典映像(約52分)

「トークライブ~単独ライブを振り返る~」「富澤vs酒」「ライブ番外地」「秋元康さんからのメッセージ」「メイキング」