菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『NON STYLEにて』を振り返る

NON STYLEにて [DVD]NON STYLEにて [DVD]
(2008/02/13)
NON STYLE

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先日放送されたM-1グランプリ2008について、あちらこちらで様々な評論がなされている。あまり有名ではない大学をそこそこの成績で卒業している自分としては、よく分からない話も多い。例えば、サンキュータツオを中心とした「手数論」も、そのうちの一つ。面白い視点ではあると思うけど、なんだかしっくりといかない。だからといって、NON STYLEの漫才を無闇に持ち上げて「サブカル的笑いの時代は終わった!」みたいなことを言う人にも同意したくないけど。そんな時代があったとは。

今作は、今年の2月に発売された、NON STYLEにとって初めての単独DVD作品だ。2007年8月に東京で行われたイベント、「東京にて」の様子を収録している。なお、このイベントは大阪・名古屋でも行われており、東京でのイベントはその締めくくりであった。

M-1グランプリ2008でのNON STYLEは、石田がボケるたびに繰り出していた“自戒ボケ”が注目されていたが、今作では、まだそのスタイルの漫才は見出されておらず、以前よりネタのテーマになっていた“井上のイキり”が前面に出された内容になっている。とはいえ、それまでの“井上のイキり”をイジり倒すだけの漫才とは違い、随所に石田のオーソドックスなボケが詰め込まれており、漫才師として一歩前進しているように感じさせられる内容ではあった。

それにしても。NON STYLEの漫才を観るたびに思うのだが、彼らの漫才はこう……掴み所がない。石田のボケには爆笑するし、井上のイキりにも苦笑するんだけれど、後で思い出し笑いをするような引きが、彼らの漫才には無い。その理由について、前述のサンキュータツオ氏は“圧倒的な「軽さ」”と表現している。確かに、そうかもしれない。分かりやすさに徹底した言葉選び、とてつもなく激しい動作を用いたボケは、老若男女に伝わりやすい一方で、かなり軽い。お笑いがスキマ産業化している昨今において、NON STYLEの様なオーソドックスな笑いを生み出すタイプの漫才師が台頭してきたというのは、考えてもみれば、不思議なことなのかもしれない。

以前、僕はNON STYLEを、彼らと同様にオーソドックスな言葉や激しい動きで笑いを取る漫才師である中川家と比較して、「NON STYLEが真正面から中川家と戦っても勝つことは出来ない。だから彼らは、井上のイキりを武器にした」と書いた。しかし此度、彼らはイキりネタを殆ど封印し、新たなスタイルを見出すことにより、M-1グランプリで優勝を果たした。それが意味することが何なのかは、僕には分からない。ただ、老若男女に受け入れられる以上のスタイルを彼らが見出し、それで審査員たちを納得させることに成功した、ということだけは言えるのではないかと思う。一休みたいだな。

あの人が喜びそうな言い方をするのであれば、NON STYLEは個性的な笑いが渦巻く時代の中、あえてその個性を抑えることで、逆にオーソドックスな漫才を生み出すという個性を提示したと言えるのかもしれない。しかし、その芸人としての個性の弱さが、如何せん気にかかる。一応、井上はイキりキャラとしての個性があるが、それも石田のツッコミが無いと成立しない。一方の石田は身体の弱さをネタにしているらしいが、漫才でこれだけ動き回っているのに、身体が弱いもへったくれもない。そういえば、審査員の上沼恵美子が「フリートークは苦手」と語っていたが……。

2006年に「新人演芸大賞」を受賞し、2007年に「爆笑オンエアバトル」チャンピオンとなり、2008年に「M-1グランプリ」のチャンピオンとなったNON STYLE。年を追うごとに、その評価は全国的なものへと変わっている。はっきり言って、現行の漫才師の中で最も勢いのあるコンビだと言えるだろう。そんな彼らは、これからきっとタレントとしての能力も査定されていくことになる。その時、彼らはどのような評価を受けることになるのだろうか。


・本編(82分)

「オープニング」『漫才:待ち合わせ』『漫才:迷子』『コント:カーナビ』『漫才:野球』『ショートコント』『漫才:いじめ』『コント:探偵』『漫才:格好いい女性の振り方』

・特典映像(30分)

Day of the legendプロモーションビデオ」

Day of the legendプロモーションビデオ メイキング」