菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

間も無く廃盤『非国民』(快楽亭ブラック)

快楽亭ブラック 非国民                    [DVD]

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“不謹慎な笑いは、確実に存在する”なんてことを書くと、潔癖な皆様方は怒り狂うやもしれないが、こればっかりは否定できない。人というのは根本的に、下品なものが好きだ。そもそも生まれてきた場所が肛門の近所にある穴なんだから、下品であって然るべきなのだ。
そんな下品な人類の中において、この快楽亭ブラックという落語家は論外に下品だ。恐らく、間違って肛門から生まれてきたんじゃないか……ってなくらい。実生活が下品かどうかは分からないが、その芸は果てしなく下品である。
しかし、一方でその下品さの中にシニカルな視点・知能犯的なカラクリを仕込んでおり、「バカには分からんだろ!」という師の確固たる意思が見られる。つまり、快楽亭ブラックというのは下品で高圧的な落語家なのである……って、最悪だな(笑) だが、落語家は最低なくらいが丁度良い気もする。事実、このクロい男の噺は面白い。あんまり面白いから、一本ずつ感想を書いてみることにした。

  • 『道具屋・松竹篇』

働きもせずにブラブラとしている与太郎に、金持ちの伯父さんが「道具屋をやれ」と言って売り物を持たせるので、与太郎が道具屋を始める……という噺『道具屋』を改変した演目。とはいえ、実際の演目では道具屋を始めるところが盛り上がりであるのに対し、ブラック師の『道具屋』は本筋の前の部分にも盛り上がり部分を作っており、まるで違う噺の様になっているのが面白い。
ちなみにその盛り上がり部分とは、与太郎が映画好きで自主制作映画を作ろうと思っており、その脚本を伯父に話す……というもの。この脚本の内容が、なかなかに凄まじい。どう凄まじいのかというと、凄まじく下品で危ないのだ。皇居ネタ・創価学会ネタ・セックスネタの三連単。そのタイトルが『名字なき子』。……いつ命が狙われてもおかしくない。
本筋も、道具屋を始める与太郎のところにやってきた客にブラック師の主張を織り交ぜているのが実に良かった。今の世の中に腹が立つと言いながら「石原慎太郎の馬鹿野郎! お前が八年間やったことって、都民税の取立てを厳しくしただけじゃねえか!」と、石原都知事批判が始まったかと思いきや、その直後に「一期払わなかっただけで、すぐ俺の口座を差し押さえやがって!」と落とすのが上手い。オチは後味良く。

  • 『「紀」子ほめ』

タダ酒を飲みたがっている男。その礼儀の無さに呆れたご隠居は、人の誉め方を説明し、赤子を誉めれば親が酒を奢ってくれると男に話す。そこで男は、知り合いの子を誉めようとするのだが、どうにも上手くいかない……という『子ほめ』という落語の改変作。このバカな男を亀田三兄弟の親父、ご隠居をやくみつる、知り合いを秋篠宮様に置き換えている。この時点でかなりアブない。そして、案の定どんどんアブなくなっていく。
この元の噺の面白いところは、ご隠居の教えてくれた通りのことをあらゆる状況で用いてしまうために起こってしまうズレなのだけれど、ブラック師の噺ではストレートになる。例えば「道理でお顔の色が黒くなりました」という誉め言葉を、マイケル・ジャクソンに言いそうになってしまい、慌てて「道理でお顔の色が白くなりましたネ」なんて言う。このバカバカしさがたまらない。まあ、そもそも亀田三兄弟の親父と秋篠宮様が知り合いという設定が、そもそもバカバカしいのだが……。笑いの量は『道具屋・松竹篇』ほど多くないけれど、危なっかしさはもっと凄い。

  • 『マラなし芳一』

これまでの二本には社会ネタを含んでいたため、まだシニカルさがあった。しかし、この噺は……完全に下ネタオンリー。タイトルで分かるように『耳なし芳一』の改変作なのだが、明らかに改変されていると分かる部分が二箇所しかない。二箇所しかないのだけれど、その二箇所のインパクトが強烈。とにかく、尋常じゃなくエロい。家族で見たら、確実に空気が悪くなる。……それは他の噺も同じ。ただストーリーは元の噺のまんまなので、個人的にはやや退屈だったか……。

・収録時間:90分+特典23分
・特典映像:スペシャル対談「芸談篇」(お相手:川上史津子