菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『志の輔らくごのおもちかえりDVD3 メルシーひな祭り』

近年、日本を訪れる外国人の数が急増しているらしい。らしい、と書くのは調査していないからである。しかし、日常で外国人を見かける機会は確かに増えたので、これは事実であると勝手に決め付けている。一昔前に「石を投げれば酔っ払いに当たる」と歌っていた人がいたが、今となっては「都会に石を投げれば外国人に当たる」と言っても過言ではないのだ。……いや、それは流石に言い過ぎか。
立川志の輔による創作落語DVDシリーズ、第三巻は『メルシーひな祭り』である。メルシーと言えばフランス語だとイヤミ(from「おそ松くん」)が言っていたように、この噺にはフランス人が大いに関わってくる。外国人といえば、以前に鑑賞した志の輔師の創作落語『こぶ取り爺さん』を思い出す。日本人が当たり前のストーリーだと思っている「こぶ取り爺さん」のストーリーを外国の人が不思議に思う……という、他所の国の人ならではの客観的意見から始まるドタバタ劇が、実に面白い噺だった。ただ、今回の噺はそれとはちょっと状況が違う。以下、ストーリーを裏ジャケより抜粋。

ひな飾りがお目当てのフランス特使夫人とその娘が、人形職人を訪ねて地方の商店街へ。しかし、その職人の専門が“人形の頭だけ”だとわかり、同行していた外務省の役人は大慌て。みかねた商店街の人々は、日本の思い出になんとかひな飾りを見せてやろうと一致協力するのだが、やがて事態は思わぬ結末へ。

この噺に登場する外国人は、いわゆる観光客の類いではなく特使夫人という凄い人。つまり、“外国の人”と“地位の高い人”という二つの要素が混在しているわけだ。で、この噺の面白いところは、商店街の人たちはどっちかというと“外国の人”として特使夫人を受け入れているけど、外務省の人たちは“地位の高い人”として接待しているという点。このギャップが面白いのだけれど、どうもスッキリしない。外務省がいちいち面倒臭いんだなあ。
商店街の人たちが特使婦人を歓迎しているってのに、外務省がいちいち止める。まあ、職務なんだろうけど……とこっちで納得していると、あのハプニングであのセリフ。商店街を全否定する、あのセリフ。あのセリフが、どうにもこうにもスッキリさせてくれない。そのまま噺はエンディングへと突入し、とりあえずハッピーエンドとなっているけれども……どうなんだろうなあ。『歓喜の歌』と同系列の噺なんだろうけど……あそこまでの爽快さは無い。でも、ある意味こういうのこそが志の輔師匠の真骨頂の様な気もする。この複雑な設定を、さらりとやってのける手腕は必見

収録時間:約51分