解放の時。『爆チュー問題SP 冥王星のメリークリスマス』
爆チュー問題スペシャル ~冥王星のメリークリスマス~ [DVD]
- 出版社/メーカー: Victor Entertainment,Inc.(V)(D)
- 発売日: 2007/10/24
- メディア: DVD
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しかし、いつからか太田は「ボケ」を求められなくなっていた。「ボケ」が飽きられたというわけではない。太田がライフワークとしている『爆笑問題の日本原論』シリーズは現在も好評連載中で、漫才を収録したDVD『爆笑問題のツーショット』シリーズも安価版が再発売されるほどに人気があるのは事実だ。
太田が「ボケ」を求められなくなったのには、理由がある。太田がタレントとして、“暴走キャラ”というポジションを確立したためだ。新世紀直前、爆笑問題は『笑っていいとも!』のレギュラーになった。『笑っていいとも!』といえば、番組の中に流れる独特の空気に出演者が即座に反応するアドリブ性を求められる番組だ。当初は<番組の空気に馴染めない>と語っていた彼らだったが、この番組のレギュラーとして活躍していくうちに、太田が隙あらばムチャクチャなことを言う“暴走キャラ”を確立し、視聴者がだんだんとボケる太田ではなく暴走する太田を期待するようになったのだ。
また、かつてボキャブラ世代と呼ばれた芸人たち(名倉潤、土田晃之、東貴博など)が、爆笑問題の番組で太田の私生活を語るようになったことも、その状況に拍車をかけた。かつて、松本人志と同じように孤高の存在として語られていた太田光が、実は多くの芸人たちに愛されているキャラクターだったという事実が世に知られた。そういう流れの結果、太田はボケが期待される芸人ではなく、皆に愛される暴走テレビ芸人となったのである。そして、それは同時に太田のボケ世界の均衡を崩すことに繋がるのだった。
イノセント、という言葉がある。無知・無邪気といった意味の言葉だ。かつての太田光は、まさにイノセントなパワーを秘めていた。無知であり、無邪気であるからこそ出来る、あまりにも不条理なボケ世界を構築していた。しかし、幼い子供がいずれ世間を知る大人へと変わっていくように、太田のボケもまた芸能界という社会の中でそのイノセントさを失っていったのである。
太田のボケからイノセントさが失われた理由は、よく分からない。関東系の演芸評論家に、漫才師として高く評価されたことからの責任感によるものなのか。それともタレントとしての活動に慣れていくことで、芸人としての嗅覚が失われていったためなのか。様々な理由が考えられるが……とにかく、太田がタレントとして場慣れしていくごとに、太田のボケからイノセントさが失われていったことは、間違いないだろう。ところが、そんな太田がイノセントさを取り戻すものが、一つだけある。“爆チュー問題”である。
1999年から『ポンキッキーズ』内で行われていた“爆チュー問題”は、爆笑問題扮する二匹のネズミが様々な物体の使用法を考えあぐねるコントである。このコントで繰り広げられる太田のボケが、かつての爆笑問題の漫才で披露していたイノセントなボケに非常に似通っている。ある意味、“爆チュー問題”は漫才やバラエティよりも、爆笑問題の本質に近いものだと言えるのかもしれない。
そんな『爆チュー問題』のライブDVDが、今作である。但し、このライブにはテレビでの爆チュー問題の様な発想はそれほど見られない。むしろ、その姿はタレントとしての爆笑問題に近く、太田は相変わらず危険っぽいことを平気に言ってのけるし、田中はそれを必至に制している。ただ、このライブでの爆笑問題は、タレントとしての爆笑問題とは明らかに一線を画している。変にウケを狙おうとせず、とにかく自分たちが楽しんでいる姿を見てもらおう、という意識を感じる。つまり、このライブは普段の爆笑問題という外殻からの脱却行為と言えるのかもしれない。何処よりも自由な彼らの姿、是非堪能していただきたい。
・キャスト 爆笑問題、ピエール瀧、安倍麻美、BOOMER、山中秀樹、カンカラ他 ・収録時間:100分+特典25分 ・特典映像 「オリジナルコント『DVDをひろってきた』」 「“爆チュー問題”の裏側に迫る! メイキング「でたらめまじめ編」」
ちなみに、僕はこれをレンタルで観たんですが……いや、amazonで凄い安価になってますね。40%オフって!(2008年2月現在)