菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

イキれ!『NON STYLEにて』

NON STYLEにて [DVD]

NON STYLEにて [DVD]

思えば、彼らの漫才を初めて観てから、もう3年になる。当時、僕はまだ大学生で、カンカラは五人組だったし、OverDriveはまだコンビを解散していなかった。その頃のオンエアバトルは、番組の放送期間を週に一度の放送から月に二度の放送に縮減していた。そんな時期に一度だけ挑戦して、高キロバトルを叩き出したのが、ハイキングウォーキングと彼らだった。当時の彼らがやっていたネタは「漢字の部首を体で表す」というもので、正直、それを観た僕はあまり面白いと思えなかった。その後、井上のイキりネタで連勝を重ねるたびに、その面白さを理解できるようになっていったが。
ここ数年での彼ら……NON STYLEの活躍っぷりは目を見張るものがある。2006年にはお笑い関係の賞を立て続けに受賞し、2007年にはオンエアバトルでチャンピオンになり、人気アニメ『ケロロ軍曹』のエンディングテーマまで歌うようになった。そんな彼らが2008年、遂に初の単独DVD『NON STYLEにて』を発売した。オンバトでのネタ披露から3年が経過しているためか、あっという間に感じられるが、実はコンビを結成してから8年も経過している。だから、ここは満を持しての単独DVD発売というべきなのだろう。
改めてNON STYLEの漫才を見ていて思ったことがある。石田のボケは、かなり分かりやすい。マニアックなボケは殆ど存在せず、子供から大人にまで理解される言葉の中でボケを探している感がある。また、思った以上に石田のボケには動きが多い。病弱という設定があったため、それほど動き回らないイメージがあったが、跳んだり踊ったり転んだり……ネタにちょくちょく動きを取り入れている。ストリートという、多くの人の視線を集めなくてはならない場でネタを披露してきた実績が、そうさせているのだろうか。中でも『爆笑オンエアバトル』でも披露された「野球」での動きは、とてつもないものがあった。
ところで、分かりやすくて動きが激しい若手漫才師といえば、もう一組思い出されるコンビがいる。M-1初代チャンピオン、中川家である。これは巨大な壁だ。なにせ中川家は、漫才師としての実力が半端ではない。ボケの質・ツッコミのタイミングも完璧だ。もしもNON STYLEが真正面から中川家に挑んでも、恐らく勝つことは出来ないだろう。
だから、NON STYLE井上のイキりをネタにした。井上のイキりは、通常の人間が持つナルシストさを何倍にも濃縮し、ウザったさを通り越して恐怖すら覚える。それは彼らのファンで密閉されている今作でのライブでさえ、女性客がウワーッと引いてしまうほどの破壊力を秘めている。その引いた空気を、石田の茶化しにも似たボケが一気に引き戻す。この芸風によって、NON STYLEは他の漫才師との違いを作り、唯一無二の漫才師になったのだった。
ただ、このスタイルには欠点がある。井上のイキりキャラばかりが先行してしまい、石田のボケが印象に残らないのだ。先に石田のボケは分かりやすいと書いたが、それは石田の根底にある人間が見えづらいということでもある。もしも、今の分かりやすさの中に、もっと石田の人間が分かってくるボケを潜ませられるようになれば……彼らは更に伸びることになるかもしれない。

・本編
「オープニング」「漫才:待ち合わせ」「漫才:迷子」「コント:カーナビ」「漫才:野球」「ショートコント」「漫才:いじめ」「コント:探偵」「漫才:格好いい女性の振り方」
・特典映像
「Day of the legendプロモーションビデオ」
「Day of the legendプロモーションビデオ メイキング」
・収録時間:82分+特典30分

ちなみに今作には、コントも収録されている。コントでは井上のイキりキャラが控えめになっており、石田のキャラクターとボケが強調されたものになっている……が、どうも弱い。「カーナビ」のコントは脚本がよく出来上がっていたが、物足りない。ここは、もっと冒険してもらいたかったなあ。