菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

ことごとく狂い咲き『十』(オリエンタルラジオ)

十 [DVD]

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 思えば、オリエンタルラジオというコンビほど、実像と世間の認知に差が生じている若手芸人はいないのではないだろうか。
 恐らく、世間におけるオリエンタルラジオのイメージは『武勇伝』のコンビであり、若手芸人でありながらゴールデンタイムのバラエティ番組で司会を務めるシンデレラボーイ的存在である。もちろん、そういった姿も彼らの一面であることは確かだ。しかし、それは決して彼らの本質ではない。オリエンタルラジオというコンビには、その上澄み液でしかない『武勇伝』を見るだけでは読み取れない深淵が、ある。彼らにとって初めての単独作品である『十』は、そんなオリエンタルラジオの深淵を微かに感じ取ることの出来るモノだった。
 本作にはタイトル通り、十本の映像作品が収録されている。それらは全て、オリエンタルラジオのネタ担当である中田敦彦が原案を書き、他の作家たちが脚本にしたものだ。それはつまり、中田の頭脳と視聴者の間には作家による処理が行われているということであり、これが彼の実際の深淵ではないということを意味している。しかし、それでもこの作品集は非常に濃密だった。
 この作品でまず気付かされることが、中田の狂気的演技だ。数ヶ月前に放送された『アメトーーク』の「ジョジョの奇妙な芸人特集」でのジョジョ立ちの完成度から容易に想像できることだが、中田は奇妙な動きを演じることに異常に長けている。二本目に収録されている作品『天才・神崎の交渉』。この作品での中田は、とにかく狂気に満ちている。目つき、唇の歪み、歯肉に動悸・瞳孔に至るまで、全てが狂っている。中田はそれを演技だと言い切っているが、その狂気の沙汰ぶりは演技を超えた、中田の内面が垣間見られるものだった。
 そんな中田の狂気性が、脚本の方に分かりやすく表れた作品が、五本目に収録されている作品『あの年の夏はよく思い出せない』だ。この作品は、大学を中退するという中田と、それを見送る藤森のやりとりを描いたものになっている。そのやりとりの中で中田がことあるごとに発する言葉が、極端にシニカルなのだ。冷たいを通り越して、異常に冷めている。その背景を想像すると、とことん深みにはまってしまいそうになる。
 ここまで、表面的な狂気を『天才・神崎の交渉』で、密やかな狂気を『あの年の夏はよく思い出せない』で見せてきた中田。そんな彼が、「一番尖がった部分」と評した作品がある。六本目に収録されている作品『ジェットガイザー』。この作品は、中田の狂気的な演技と狂気的な脚本が爆発した作品になっている。中田演じる、正義の味方であるジェットガイザーが、悪の怪人・カマギーグを生理的に際どい攻撃で破壊する様は、まさに狂気だった。
 中田自身が「これを流通させて良いの?」とコメンタリーで語っている本作。確かに、本作に収録されている作品は基本的に際どく、テレビでの放映は確実に無理だといえるようなものが殆どだ。きっと、オリエンタルラジオのファンの中には、この作品に対して拒否反応を抱く者もいることだろう。しかし、それらの数よりも、本作で彼らの本質を知ってファンになる人の方が、きっと多いだろう。それだけのエネルギーが、この作品集にはあった。
 2008年、メイン司会を担当する番組が減少するが、一方で漫才ライブツアーを行うことを決定しているオリエンタルラジオ。昨年のお笑い大賞への参加や今回の『十』のことも含め、だんだんとオリエンタルラジオはタレント活動から芸人活動へとシフトチェンジを始めているようだ。
 コンビ結成四年目。彼らはまだまだ、進化する

・本編(91分)
「1.う」「2.天才・神崎の交渉」「3.TOSHIO-SUPER α3000」「4.情熱列島」「5.あの年の夏はよく思い出せない」「6.ジェットガイザー」「7.TAMPAK」「8.約束の日」「9.エンゲージリング」「十.おこめ刑事」
・特典映像(11分)
「副音声 オリエンタルラジオが「十」を振り返る」「おこめ刑事テーマソング 2nd ver」「Making of エンゲージリング」

 最後に、今回ほとんど触れていない藤森慎吾について。本作で藤森は様々なキャラクターを演じている(怪しげな販売員・究極の生命体・子供など)が、どのキャラクターを演じていても、藤森からはひたすらダメ臭が漂ってくる。なお、これは別に狂気的中田に対してダメということではない。とにかく、何かに依存するタイプの人間が持つダメさが香ってくるのだ。その藤森のダメな部分をクローズアップした作品がある。『約束の日』だ。この作品における藤森は、物凄くダメだ。『カバチタレ!』あたりに登場しても違和感が無いくらい、ダメな匂いがする。しかし、藤森がそれほどにダメ臭を漂わせているからこそ、中田の狂気性が緩和されていると言えるのかもしれない。