菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

負のフィードバック『せんざい 1/2』(タイムマシーン3号)

タイムマシーン3号 せんざい1/2 [DVD]

タイムマシーン3号 せんざい1/2 [DVD]

 稀に見る駄作というのは、こういうのを言うのだろうか。
 これまで、僕は様々なお笑いDVDを見てきた。勿論、その大半は満足できる内容のものだったが、その中には、個人的に相性が良くない作品や、値段と内容が見合っていない作品、そのクオリティがあまりにも低すぎる作品などもあった。しかし、それらの作品自体を否定してしまえるほどに酷い作品は、これまでに見たことはなかった(と思う)。
 しかし、このタイムマシーン3号による『青春18キック』『メリッサに恋して』に続く単独映像作品『せんざい』は、そんな僕の歴史に深く刻み込まれるような、とてつもなく酷い作品だった。これまで、単に笑えない作品にも出会ってきたし、どーしようもないような作品も見てきたけれど、ここまで酷い作品は、本当に初めてだった。
 本作『せんざい』は、タイトルの通り“業界向け宣伝材料DVD”というコンセプトの元、テレビの定番ジャンルをタイムマシーン3号流に色づけ・アレンジした映像郡を収録した作品集になっている。
 実はこれまで、僕は素材としてのタイムマシーン3号のことを、多大に評価してきた。というのも、2005年に発表されたタイムマシーン3号の初作品『青春18キック』が、彼らの持つ爽やかさを演出した上で、しっかりと笑える内容になっていて、二人の持ち味を存分に発揮できている内容になっていて、若手芸人のDVD作品としては実に満足の出来る内容だったのだ。それだけに、この内容の酷さには驚かされた。
 一本目に収録されていた旅番組パロディは、まだ良かった。工事用具置場を温泉地の様にレポートする様子はバカバカしくも面白く、二人の無理しつつもノホホンを演出しようとする姿は、なんだか学生のバカノリを見ているようで、楽しむことが出来た。……問題は、この後だった。
 まず、関が自身の肛門を客席に向けて広げるギャグが連発されるコント「よごれ師匠」で、一気にテンションが下がる。いくらホモ受けが良い(らしい)とはいえ、そういうアピールをする意味が分からない。更に、その後のドキュメンタリーパロディ「余裕のよっちゃん」では、山本が鼻の穴にドジョウを突っ込んだり、母親に初体験について聞かさせられたりするなどのムチャを要求され、更に気まずい空気が蔓延し始める。更に続くコント「つっこみこっくりさん」は、ただ単に退屈な内容。最終的に、救いようがない雰囲気になってしまった。
 ……これらの脅威を潜り抜けた後に収録されている漫才は、オンエアバトルのチャンピオン大会で高く評価された「お見合い」。ここで取り返してくれるのかと思いきや、当時の完成度とは比べ物にならないほどにグダグダなものになり、本当にどうしようもないことに……
“せんざい”というのはあくまでもコンセプトなので、そこに徹する必要は無い。確かに、無い。実際の宣材の様に、無難な作品にする必要は無い。しかし、本作は宣材云々を抜きにしても、あまりにも酷い。せめて、あのコントをどうにか出来なかったのか、と。肛門を見せ付けるコント内ギャグなんて、やらなくても良いタイプの芸人だろ、と。
 若手芸人だから、多少のムチャは仕方が無いことではある。タイムマシーン3号も芸人という職業である以上、そういう仕事を受け付けなくてはならないし、受け付けていくべきではある。だけど、もうちょっと仕事は選んでもらいたかった。今回の仕事は、現段階のタイムマシーン3号がやるべき仕事ではなかったはずだ。

・収録内容(約97分)
「オープニング」「旅番組〜東京の名湯〜」「コント〜よごれ師匠〜」「ドキュメンタリー〜余裕のよっちゃん〜」「コント〜つっこみこっくりさん〜」「ドラマ前編」「ドラマ後編」「ミュージッククリップ」「漫才」
・特典映像(約22分)
「余裕のよっちゃん 本編未収録シーン」「山本浩司の一日」「関太の一日」

 本作鑑賞中、僕はふと岡崎二郎の名作ショートショートアフター0』の一編、「反撃の負」という話にあった記述を思い出していた。その記述とは、次の様なものだった。
「例えば生物集団は、それまでに取り込んだエネルギー(エサ)が多ければ多いほど、ますます多くのエネルギーを取り込む傾向があります。それは幾何級数的な増殖という正のフィードバックなのです。ところが、自然には必ず負のフィードバックが存在し、その増殖を適度に抑えるように働くのです。もし、負のフィードバックが存在しなければ、増えすぎた生物集団は、結局、崩壊の道を辿ることになるのです。」(『アフター0』6巻所収「反撃の負」より)
 ひょっとしたら、本作はタイムマシーン3号という芸人の増えすぎた「笑いのエネルギー」を適度に抑えるために作られた、「負のフィードバック」だったのかもしれない。事実、2007年のタイムマシーン3号は、これまでとは比べ物にならないくらいの活躍ぶりを見せている……。