菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

バカの方向性『エレ片コントライブ コントの人』

エレ片コントライブ~コントの人~ [DVD]

エレ片コントライブ~コントの人~ [DVD]

 エレキコミック片桐仁によるコントユニットエレ片によるライブDVD第四弾『コントの人』を観た。彼らのライブDVDは過去に三本ほど観ているが、いずれも気の抜けたコーラの様に味気ない内容で、この『コントの人』も、どんなもんかと思っていたが、これが予想外も予想外に面白い内容で、大いに驚いた。……いや、むしろ、これこそがエレ片というユニットの本当の姿である、と考えるべきなのかもしれない。これまでのエレ片は単なる腕ならしでしかなく、これこそが彼らの本領発揮なのだ、と。いや、それならもっと早くに本領を発揮しろ、という話なのだが。
 それにしても、この二組。2005年にユニットを結成し、活動を開始したという割には、あまりにも息が合いすぎている。そりゃ、両方がまだアマチュアだった頃からの知り合いではあるから、それなりに息も合うだろうとは思うが。このユニットの場合、そういう旧知の仲というレベルを超え、長年連れ添った夫婦の阿吽の呼吸の様なものを感じさせる。
 最近になって気付いたことなのだが、エレキコミックのコントは単純にバカなだけではなく、そこはかとない“攻撃性”を秘めている。それは単純に、暴力を笑いにしているということではない。エレキコミックのコントは基本的に、そのバカ分の多くを担っているやついいちろうの強引なボケによって展開する。例えば、『ヤッツン新聞』では今立の日常を破壊するかのように、新聞屋のやついが現れ、新聞を取れと要求する。同様に『つっこまれ屋』では、会社帰りの今立に無理を押し付け、つっこまれ屋のやついが金を巻き上げる。時折、その立場が逆転することもあるが、基本的にやついが今立を攻める様にボケるスタイルには変わりない。ただ、その攻撃性は、彼らの持ち味である“バカ”さによって、幾らか緩和される。だから、多くの人はエレキコミックの攻撃性に気付かない。
 一方の片桐仁は、攻撃性とは無縁の男である。こう書くと、ラーメンズのライブを知る人間には否定されるかもしれない。確かに、ラーメンズのライブでの片桐は、攻撃的というか、狂人の様な役を演じることが多かった。しかし、僕は彼の演じる狂人に、どうもリアリティを感じない。狂気の根っこに理性が見える、とでも言うのだろうか。『フランケンシュタインの花嫁』の怪物に対する印象に近いものを、片桐演じる狂人には感じる。いや、あれは人とか殺してるけど。
 攻撃タイプのボケやついと、非攻撃タイプのボケ片桐。この二人が絡み合うことによって、攻撃性(押し)の笑いと非攻撃性(引き)の笑いが一緒くたになる。それはクリームソーダのクリームとソーダが混合しているかの様な、何処か特別で素敵な味を生み出すこととなる。そして、それらの味を上手く引き立てる今立進のボケたがりなツッコミが、両者のボケを更に笑えるボケへと昇華する。うーん、完璧なバカ生産工場だ。少しもスキが無い。
 その傾向が特に色濃く見られたのが、『リアル湯けむり殺人事件』というコントだった。温泉地に旅行に来た三人が宿泊先で殺人事件に遭遇し、何故だか「三人の中に犯人がいるのではないか」という話になる……というコントである。この設定もバカバカしいが、その中身も相当にバカバカしい。まず、犯人はやついという流れになる。理由は無い。とにかく、犯人っぽいということなのだ。片桐にアリバイが無くとも、今立が“DEATH”というシャツを着こなしていても、とにかくやついが犯人なのだ。それでも、やついの姿は悲観的に見えない。むしろ、今立・片桐が二人して立ち向かって、初めてやついと対等に戦えているように見える。
 その様子が何かに似ているなあ……と考えていると、ふとドラえもんのことを思い出した。そういえば、エレキコミックの構図はジャイアンスネ夫に似ているかもしれない。そうなると、片桐はのび太で、小林はドラえもんか? しずかちゃんはバカリズムあたりがやるんだろうか……って、心底どうでも良いな。

・本編(107分)
「オープニング」「美術品くじ」「リアル湯けむり殺人事件」「パワーベルト」「謎」「後輩くん」「さくらの薗」「エンディング」
・特典
「今立進 インタビュー」「やついいちろう インタビュー」「片桐仁 インタビュー」「エレ片3人によるコメンタリー」