菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『NON STYLE LIVE 2008 in6大都市 ~ダメ男vsダテ男~』

NON STYLE LIVE 2008 in 6大都市 ~ダメ男vsダテ男~ [DVD]NON STYLE LIVE 2008 in 6大都市 ~ダメ男vsダテ男~ [DVD]
(2009/01/14)
NON STYLE石田 明

商品詳細を見る

M-1グランプリ2008という大会について。同大会ファイナリストであるキングコング西野亮廣は、ラジオ番組で「レッドカーペットのお客さんが来てしまっている」と語ったという。その発言が、自身のコンビが九組中八位という惨憺たる結果だったことに対する単なる言い訳なのか。それとも、あくまでも一芸人として客観的に思ったことを語ったに過ぎないのか。その真意は、第三者である僕には分からない。ただ、この西野の言い分は、少なからず的を射ているのではないだろうか。

M-1グランプリ2008において、その決勝戦に進出したのは全部で九組。例年通りである。そのうち、『爆笑レッドカーペット』に常連と呼べるほどの出演経験があるコンビは、全部で五組。その数は過半数を占めている。彼ら『爆笑レッドカーペット』の常連たちのネタで、今大会に番組の雰囲気を少なからず匂わせてしまっていたことは、決して否めないだろう。実際のところ、『爆笑レッドカーペット』で披露していたネタのテイストを、今大会でも見せている漫才師も少なくはなかったわけだし。

その中において、『爆笑レッドカーペット』の常連でありながらも、同番組とはまったく違うスタイルの漫才を完成させていたコンビが、NON STYLEだ。かつて『爆笑オンエアバトル』などの番組で、ツッコミの井上がカッコつける(彼らは関西風に“イキる”と表現する)姿をボケの石田がイジくり倒すという漫才スタイルを確立していた彼ら。その後、『爆笑レッドカーペット』で、石田がボケまくるオーソドックスな漫才スタイルにシフトチェンジ。高い評価を受ける。今回のM-1グランプリで、NON STYLEが披露するだろうと思われていた漫才は、この『爆笑レッドカーペット』スタイルの漫才だった。

ところが、M-1グランプリ2008決勝の舞台で、NON STYLEはこれまでのスタイルに、更なるシフトチェンジを加えたスタイルの漫才を叩きつけてきた。そのスタイルとは、石田が一度ボケた後、重ねるように太ももを叩きながら自嘲気味にボケを繰り出す、というものだった。このスタイルによって、NON STYLEの漫才はよりテンポが早くなり、よりボケの数が多くなり、より漫才の勢いに拍車がかかった。この時点で、既に彼らの漫才には二度のシフトチェンジが行われている。NON STYLEという名前に違わぬ、恐るべき自由さだと言えるだろう。

今作には、そんなNON STYLEの漫才が一本も収録されていない。M-1グランプリ2008決勝の舞台で披露された二本の漫才の元になっているだろう漫才『ホラー映画』『応急処置』は収録されているが、上記の石田自嘲スタイルは、ここでは披露されていない。それはつまり、このライブが行われた2008年9月の時点では、まだこのスタイルが完成されていなかった、という事実を意味する。たった三ヶ月。たった三ヶ月で、NON STYLEはあの漫才スタイルを完成させ、M-1グランプリ2008を征したのである。実に恐ろしい技術力だ(ただ「漫才『エレベーター』」で一人ボケ一人ツッコミ状態になる石田の、太ももを叩きながらのツッコミは自嘲ツッコミのそれを髣髴とさせた)。

改めて。今作本編には、九本の漫才と三本のコントが収録されている。その九本の漫才は、いずれもが本ネタとして完成されたものだ。まだM-1グランプリで優勝するなんて思ってもみなかった二人が、決勝の舞台を夢見て作っただろう漫才の数々。その熱意を是非、噛み締めてもらいたいと思う。なお、彼らの夢を叶えさせてくれた漫才については、後日発売が予定されている『M-1グランプリ2008』の方で、どうか一つ(宣伝)。

余談。個人的には、『コント「Bar」』が印象に残っている。井上さんのイキりは、地のべしゃりが要求される漫才よりも、完全にキャラクターを演じることが出来るコントの方が、より誇張されて良い。だから、石田さんのイキりイジリも、それほど過剰には感じられなかった。今後、井上さんのイキりはこういうカタチで出していったほうが、面白いかもしれない。うん。


・本編(87分)

『漫才「デート」』『漫才「取り調べ」』『漫才「エレベーター」』『漫才「事情聴取」』『漫才「もしもの話」』『コント「お化け屋敷」』『漫才「雨やどり」』『漫才「ホラー映画」』『コント「Bar」』『コント「同棲」』『漫才「居酒屋」』『漫才「応急処置」』

・特典映像(24分)

NON STYLE Memory」※副音声付