菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『キングオブコメディ第5回単独ライブ「誤解」』

キングオブコメディ 第5回単独ライブ「誤解」 [DVD]キングオブコメディ 第5回単独ライブ「誤解」 [DVD]
(2009/01/21)
キングオブコメディ

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2007年8月22日。この日、あるDVD作品が発売される予定だった。作品の名前は『誤解』。キングオブコメディによる第五回単独ライブ『誤解』の様子を収録した作品で、彼らにとっては二枚目の単独映像作品に当たる。当時、発売元のコンテンツリーグは、三ヶ月連続で人力舎に所属する若手芸人の単独ライブDVDをリリースすることを決定していた。7月にはラバーガール第二回単独ライブ『フラッシュバック・スピノーネイタリアーノ』、9月には東京03第五回単独ライブ『傘買って雨上がる』の発売が予定されており、今作『誤解』は、その間に収まるカタチになる筈だった。

しかしその日、『誤解』が店頭に並ぶことは無かった。キングオブコメディが活動を休止し、DVDの発売も見送りとなったからだ。当時、彼らが出演する予定だった『爆笑オンエアバトル』でのオンエアも、活動休止によって中止された(その結果、六位でオフエアになる筈だったノンスモーキンが繰り上がりオンエアとなった)。では、どうして彼らは活動を休止するに至ったのか。

その事件は、2007年7月11日に起こった。午前8時頃、東京メトロ千代田線において、キングオブコメディのメンバーである高橋健一が、痴漢容疑によって逮捕されたのである。しかし、高橋は一貫して容疑を否認しており、人力舎もそんな高橋の態度を受け、彼を解雇することなく、あくまでも活動自粛という処分を下していた。その間、相方の今野浩喜はピンでの活動を開始。個人で単独ライブを行うなど、積極的な活動を続けていた。なお高橋は、事件から二日後の7月13日に釈放。その後も冤罪を主張し続け、12月28日に不起訴処分となる。そして、翌2008年の1月1日に、仕事復帰を果たしたのだ。

そうしてキングオブコメディは、思ったよりも早く復活を遂げた。復活後は『めちゃイケ』内「笑わず嫌い王決定戦」や『爆笑レッドカーペット』などの番組に出演し、人気を博している。しかし、発売中止となった『誤解』が再発売される予定は、なかなか発表されなかった。ファンの間では「ひょっとして、このまま封印されるのでは?」という噂まで広がっていた。しかし、そんな想像は杞憂だった。2009年1月21日。『誤解』は当初の発売予定日から一年四ヶ月をかけて、再発売されたのである。

キングオブコメディといえば、ボケ役の今野が自由奔放に意味不明なフレーズを繰り返し、それをツッコミ役の高橋が徹底して現実へと引き戻すスタイルのコントが特徴的だ。本編に収録されている『教習所』は、そんなキングオブコメディの真髄ともいえる作品。生徒役の今野が教官役の高橋を終始して翻弄する姿は、鬱陶しくも面白い。

ところが、単独ライブとなると、その関係が少なからず崩壊する。今野は単なる狂人ではなくなり、高橋も一般人の枠を大きく逸脱する。そんな特殊なキングオブコメディを堪能できるコントが、『出張』だ。会社の出張で博多にやってきた若手サラリーマンの二人が、宿泊先のホテルで会話を繰り広げるというコントなのだが、二人が二人とも、とてつもなく偏執的なのである。

今野は地方に出かけたとしても、まったく動じないタイプだ。今回も博多に来たというのに、地元の名物には目もくれず、その日の夕飯もルームサービスのピザで済ませてしまう。そんな今野に対し、高橋は信じられないという態度を取る。この時点では、通常のキングオブコメディのコントと同様と言えるのかもしれない。しかし、観光をテッテー的に否定した今野の態度を受けて、高橋もだんだんと極端になっていく。「特に行くところがない」と断言する今野に対抗すべく、高橋は尋常ではないほどに多くの名物・観光地の名を挙げていくのである。結果、ボケとツッコミが次から次へと入れ替わる、極端に興味の無い男と極端に興味のある男のやりとりが展開し、コントは混沌とした空間へと突入してゆく。

五ヶ月ほどの活動休止期間のためか、ラバーガール東京03といった同事務所のコント師たちに比べて、ちょっと乗り遅れた感があった彼らだが、今から二年も前の公演で、ここまで異様で完成度の高いコントを作り出していたということに、今更ながら驚きを隠せない。そして、待ち遠しくなるのは第六回単独ライブの予定だ。ここから更に成長した彼らの姿を、一刻も早く確認したい。今作は、そう思わせるに足る内容だった。

なお、本編はSIDE.AとSIDE.Bに分かれている。Aにはライブ映像が収録されており、Bには幕間映像が収録されている。個人的に、ライブ映像と幕間映像は同じ本編としてまとめてもらいたいのだが……。この幕間映像も、なかなか面白かった。特に面白かったのは、下北沢で漫読家を営んでいる東方力丸氏にキングオブコメディのコント台本を読み上げてもらう、という企画。かなりバカバカしく、脱力せざるをえない一品。っていうか、シモキタって自由だな。


・本編SIDE.A(約52分)

『アナウンス』『集会』『教習所』『出張』『ウエイトレス』

・本編SIDE.B(約29分)

『キンコメの宣伝活動 IN 下北沢』『ダジャレネーター』『世界はじめてさん 2007』

『高橋のカツゼツを検証してみよう』『MC高橋のテーマ』

・BONUS TRACK

『野鳥』(約10分)

『YATTE YATTE レボリューション ベストリミックス』(約9分)

『世界はじめてさん 未公開ボツテイク(本人達による副音声付)』(約7分)