菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『関根勤の妄想力 北へ』

関根勤の妄想力 北へ [DVD]関根勤の妄想力 北へ [DVD]
(2009/06/17)
関根勤

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元来、妄想とは、他人に見せるべきではない、一つの密室的な空間である。

何故ならば、妄想の多くは、往々にして妄想している当人の欲望を剥き出しにしたものであり、それらの妄想を他者に提示するということは、トレンチコートの隙間から性器を晒している露出狂の如く、変態的かつ非常識的な行為と同義であると言えるからだ。

そんな、世間ではタブー視されていると言っても過言ではない妄想の世界を、エンターテイメントとして表現し続けている男こそ、関根勤その人である。

そして、この『関根勤の妄想力』は、そんな関根のいかがわしき妄想の世界を、関根だけが存在する空間を用いて映像化することにより、人間の妄想が果てしなく自由であること、そして、妄想を繰り広げることは単なる欲望の追求のみにより成し得ることではないということを伝えていた。

少なくとも、昨年リリースされた『関根勤の妄想力 東へ』および、『関根勤の妄想力 西へ』に関しては。

ところが。

今年四月にリリースされた『関根勤の妄想力 南へ』において、関根はスタジオから日常の世界へと帰還し、何気ない日々の中で妄想を繰り広げていた。

これは決して、関根の妄想を映像化するための費用削減による措置でも、CGクリエイターたちが関根のあまりな妄想に呆れ返って起こしたボイコット行為への対策でもない。

これ即ち、関根が日常の中で妄想する姿を撮影することにより、関根流妄想の手法を視聴者に伝授しようという試みなのである。

それはまるで、通信教育で学習する空手の如きもの、と言えるのかもしれない。

そして今作。

関根勤の妄想力 北へ』にて関根は、視聴者である我々だけではなく、わざわざ集められた350人の観客と対決するかのように、その妄想の極意をまざまざと見せつけていた。350人の観客と対峙する関根は、彼らが繰り出す森羅万象のテーマで次々と妄想を繰り広げ、笑いへと昇華していく。

それらの一貫性の無いテーマは、時に関根に苦虫を噛み潰したような表情にさせ、時に関根に安堵の微笑を浮かばせ、時に関根を窮地へと追い込んだ。

が、やがて、会場の空気は一体となり、関根を囲う観客たちは、敬愛の眼差しをもって関根を見つめるようになっていく。

関根は自身の妄想力によって、350人の観客を自らの手中へと収めたのである。

およそ一年に渡ってリリースされ続けてきた『関根勤の妄想力』。

その正体は、関根師範による妄想の世界の楽しさを教授した、妄想信仰ビデオであった。

全巻を通して鑑賞したら、その楽しさから抜け出すことは不可能だ。

さあ、旅立とう。妄想の極地へ。

きっと関根師範は、そこで免許皆伝片手に待っている。


・本編(98分)

「LIVE即妄想」「LIVE顔妄想」「本妄想」

・特典映像(14分)

特典妄想「歌妄想 ~初めて聴く英語詞の歌で妄想する~」