菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『タカアンドトシ単独ライブ in 日本青年館 勝手に!M-1グランプリ』

タカアンドトシ単独ライブ in 日本青年館 勝手に!M-1グランプリ [DVD]タカアンドトシ単独ライブ in 日本青年館 勝手に!M-1グランプリ [DVD]
(2009/09/09)
タカアンドトシあべこうじ (音声のみ)

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タカアンドトシといえば、漫才だ。

漫才師としてのタカアンドトシの歴史については、僕が説明するよりも『爆笑オンエアバトル タカアンドトシ』を観賞したほうが、きっと分かりやすく伝わることだろう。この作品には、タカアンドトシが北海道でくすぶっていた頃の漫才から、結成十年目を迎え、ネタが円熟の時期に入り始めた頃の漫才までを収録している。つまり、この作品はタカアンドトシという漫才師の成長記録であると同時に、彼らが徹底して漫才にこだわり続けてきたという歴史の証明なのである。

そんな“漫才師”タカアンドトシは、単独ライブにおいても漫才に対するこだわりを忘れない。三年前に行われた前回の単独ライブ『タカトシ寄席 欧米ツアー2006』。このライブは、タカトシの二人が従来の「欧米か!」スタイルでの漫才だけではなく、様々なスタイルの漫才をランキング形式で披露するというスタンスのもので、彼らが漫才の歴史に胸を貸してもらっているような印象を与えられるライブだった。

それから三年後の、2009年。タカアンドトシは、久方ぶりの単独ライブを決行することとなる。ライブタイトルは『勝手にM-1グランプリ』。年に一度行われている、日本一の漫才師を決定する“M-1グランプリ”を摸したライブである。その決勝戦に進出する九組の漫才師は、全てタカアンドトシによる自作自演だ。つまり、かつて“M-1グランプリ優勝”という栄冠を逃したタカアンドトシが、“勝手にM-1グランプリ”という大会を勝手に開催し、勝手に優勝してしまおうという腹なのである。なんだか涙が出そう。色んな意味で。

様々なスタイルの漫才を披露するという意味では、前回の単独ライブを踏襲していると言える。が、その完成度は、前回の比ではない。時事ネタ漫才、ダブルボケ漫才、歌ネタ漫才、読み物漫才、夫婦漫才……このライブで披露されている漫才は全て、タカアンドトシによるしっかりとした租借と消化によって生み出された、完全無欠の“新作”なのである。

中でも個人的に目を見張ったのが、敗者復活戦を勝ち上がってきたという設定で登場したコンビ“MCデンジャー feat.ダイナマイ-T”による、リズムネタだ。オリエンタルラジオの『武勇伝』を彷彿とさせるこのネタは、他のどのネタよりも単独のネタとして純粋に出来が良く、面白かった。普通に「爆笑レッドカーペット」にかけられるネタだったのではないかと。

ただ個人的に残念だったのは、ライブの最後で披露された漫才が、今回もそれまでに披露されたネタの総まとめの様なものだったということ。最後の最後で全体のまとめに入る構成自体は嫌いじゃないのだが(むしろ好きなほう)、それを漫才でやられると、なんだか萎えてしまうのである。これは恐らく、僕が漫才を評価するにあたり、その「アドリブ感」を重視していることが大きく関係しているためだろう(この構成だと、どうしても「仕込み感」が出てきちゃうからね)。これだけがちょっと残念だった。とはいえ、今作が非常に優秀であるということに変わりはないのだが。

(追記。今にして考えてみると、今作を鑑賞して僕が感じた違和感の正体は「構成によるアドリブ感の無さ」によるものではなく、どちらかというと「自分たちで作った架空のコンビのボケを引用した際における、トシのツッコミ」によるところが大きかったのではないかと思う。タカが引用ボケをすると、トシはそのまま引用先のコンビ名を使ってストレートに「○○だろ!」とツッコミを入れるのだが、これがなんだかこそばゆく感じたのである。どうしてそう感じたのかは、まだよく分からない)

2009年は『NON STYLE ~LIVE2008 in6大都市~』、『かわしまんざいたむらいぶ』(麒麟)、『21世紀大ナイツ展』、『板の上』(矢野・兵動)など、漫才をテーマにした傑作が多くリリースされているが、今作もまた今年を代表する漫才DVDとして数えられるべき傑作だと言えるだろう。音声のみで司会進行役を務めている、あべこうじの陰ながらの活躍にも注目である。


・本編(117分)

『ダブルレンズ』『貰い飯』『姫かぐや』『ジージーマゴマゴ』『タカアンドトシ』『グリル童話』『稲川’s』『夢けん太・きく代』『敗者復活組:MCデンジャー feat.ダイナマイ-T』『最終決戦三組』

・特典映像(22分)

タカアンドトシ鈴木おさむSpecial Talk」

「姫かぐやプロモーションビデオ」

副音声「タカアンドトシ鈴木おさむによる爆笑オーディオコメンタリー」