菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『永野「目立ちたがり屋が東京でライブ」』

永野「目立ちたがり屋が東京でライブ」 [DVD]永野「目立ちたがり屋が東京でライブ」 [DVD]
(2009/09/18)
永野

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カルト芸人と呼ばれる人たちがいる。一般的にはあまり知られていないが、一部の人たちに圧倒的な支持を受けている芸人のことである。彼らの活動の場は主に舞台だが、たまにテレビ番組に出演して、視聴者の度肝を抜くことがある。今でこそテレビ番組に出演しているのが当たり前のようになっている鳥居みゆきも、数年前まではカルト芸人だった。放送コードに引っかかるような、過激でインパクトの強いコントを数多く生み出していた。今はテレビ出演の回数が多くなったためか、“テレビ的に過激な笑い”というラインをキープしているが。

永野という芸人がいる。ピン芸人だ。今はM-1グランプリ2007を制したサンドウィッチマンと同じフラットファイヴという芸能事務所に所属しているが、かつてはホリプロコム所属だった。過去に『インパクト!』『リンカーン』『イツザイ』『あらびき団』などのバラエティ番組に出演経験があり、また『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』で年に一度行われている「山-1グランプリ」にて、優勝をしたこともある。芸人名を聞いてもピンと来ない人が多いのではないかと思うが、、彼の持ちネタである「映画スパイダーマンをまったく観たことがないんですけれど、やってみます!」というタイトルを見れば、きっとピンと来るのではないかと思う。それでも分からなければ、もうどうしようもないんだけれど。

今作には、永野が新宿ロフトプラスワンで行ったライブを収録されている。ロフトプラスワンといえば、サブカルチャー系のトークライブが数多く行われており、よくQuick Japan的な雑誌にも名前が登場する場所だが、そういう場所でトークだけではなくネタライブも行っているのかと、ちょっとばかり驚いた。まあ、たぶん日常的に行われていることなのだろうが、なにせローカル在住の人間には未知の世界なのである。そこで繰り広げられる、永野のネタの数々。まあ、なんというか、衝撃的だった。

永野のネタは、基本的にショートコントである。最初にタイトルがあって、そこから短いコントが始まり、そして特にオチもなく終了する。ピン芸人でショートコントを持ち芸にしている芸人は、かなり珍しい。鳥居みゆきが「マサコ」というキャラクターを演じているとき、ショートコントの様なものを披露しているが、僕はそれくらいしか知らない。シンプルにボケやツッコミで世界を構築するのではなく、ストーリーのある笑いの空気を浸透させていくスタイルになりがちな一人コント師には、ショートコントのネタは難しいのかもしれない。

永野のショートコントは、常に妄想的である。現実にはありえないシチュエーション、現実では見ることのできないだろうシチュエーションを、彼はショートコントとして昇華している。

例えば、田原俊彦タイガー・ウッズが喧嘩をするというコントがある。トシちゃんはウッズのことを力強く蹴りあげたりして挑発するし、一方のウッズはトシちゃんをゴルフクラブで攻撃したりする。そんな二人の間に割って入ってくる、一人の女。「喧嘩はダメ~~~~!」そして、満面の笑顔で、「あゆでぇす」。完全にありえない風景である。まず、トシちゃんとウッズが喧嘩をしているという状況もありえないし、それを浜崎あゆみが止めに入るという構図もありえない。というか、どうしてそういう状況になっているのかも、分からない。そこに理屈がないのである。

この永野のショートコントに、とても似たタイプのショートコントを作りこんでいるユニットがいる。超新塾のイーグルとタイガーによって結成されたコンビ“禅”である。禅のネタもまた、『握手した時の静電気で感電死』『背骨で剣道』『タモさんがアシスタントに頼むポスターが活きのいいヒラメ』などの様に、現実ではありえないシチュエーションの笑いが構築されている。しかし、禅のショートコントがあくまでも笑いの方程式によってしっかりと構築されているのに対し、永野のショートコントは何処かやぶれかぶれで、笑われようがスレろうが知ったこっちゃなしに繰り出されているような、そういう印象を受ける。しいて言葉にするなら、永野には圧倒的にメジャーさが欠けているのだ。

今作のタイトルから、僕は永野という芸人を朗らかで呑気な芸人だと間違った認識をしていたが、蓋を開けてみると、彼はこれまでに僕が観てきたあらゆるお笑い芸人の中で、最も自己世界に埋没した笑いを生み出している芸人だった。サンドウィッチマンと同じ事務所に所属しているからと、何気無しに今作を手にする人も多いのではないかと思うが、油断してはならない。ここには、かなり濃密で、かつ自分勝手な笑いしか存在していない。テレビではあまり見られない、そのカルトな世界をカツモクして見よ!


・本編(84分)

・特典映像(34分)

「霊界から聖徳太子の亡霊を呼ぶ儀式」「疲れ気味のあなたに、永野から癒しのデトックス念力」「謝罪コメント」「カリフォルニアの天使達」