菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『はんにゃ単独ライブ「はんにゃチャンネル開局!やっちゃうよ!!」』

はんにゃ単独ライブ「はんにゃチャンネル開局!やっちゃうよ!!」[DVD]はんにゃ単独ライブ「はんにゃチャンネル開局!やっちゃうよ!!」[DVD]
(2009/12/09)
はんにゃ

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2009年を代表する若手芸人といえば。そんな質問を自分に投げかけたとき、それに対する回答として思い浮かぶ芸人というのは、得てして、演芸の世界でそれなりの功績を残してきた芸人であることが多いようだ。例えばオードリー、ナイツ、U字工事といった、前年のM-1グランプリでの活躍が印象深いコンビなどが、すぐに浮かんでくる。これは言うまでもなく、僕がテレビバラエティよりも芸人のネタに重きを置いているからであって、一般的にはもっとテレビ寄りな、例えばはんにゃの様な、特にお笑いの賞レースで結果を残していない芸人を思い浮かべる人の方が多いだろうことは、実際に統計を取らずとも明明白白な事実である。

はんにゃといえば、僕は彼らの笑いを理解できない人間だった。それは別に、彼らのネタで笑えない、笑うことが出来ないということではなく、彼らが求めている笑いのスタイルとは果たして何なのか、それを見出すことが出来なかったというだけの話である。笑えるのならば別にそれでいいじゃないか、と考える人もいるだろうが、お笑いブログなどという珍奇なモノを運営している人間としては、どうしても気になってしまうものなのだ。以前、お笑い評論家のラリー遠田氏は、はんにゃの笑いについて「金田の生み出す視覚的な笑い」についてのみを取り上げて語っていたのだが、これもなんだか自分にはしっくりくるものではなかった。確かに金田のパフォーマンス能力には、目を見張るものがある。そして彼ら自身もまた、その動きで笑いを取ろうという意識を持っていることも間違いない。だが、はんにゃがやろうとしていること、生み出そうとしている笑いは果たしてそれなのだろうか、という感情があったのである。

そんな疑問がぐるぐると頭の中を回転していた最中、はんにゃの単独ライブを収録したDVDがリリースされることとなった。タイトルは『はんにゃ単独ライブ はんにゃチャンネル開局! やっちゃうよ!!』。なんでも、はんにゃの二人が新しいテレビ局を開局したという設定の元、番組に見立てたコントや映像を披露する内容になっているという。はんにゃが生み出す笑いを理解できなかった僕は、すがる思いでこの作品を鑑賞することにした。テレビでは一般視聴者に向けた笑いを生み出している芸人が、舞台ではまったく違ったディープな一面を見せるという、お笑い芸人にはごく当たり前に見られる現象に期待していたのである。また、構成作家として元チャイルドマシーン樅野太紀が関わっているという情報が、僕の興味を引いた。というのも、はんにゃが生み出している笑いと、かつてチャイルドマシーンが生み出していた笑いには、若干の共通点があるように感じていたからだ。

ライブは、金田が演じるキャラクターを中心としたコントメインで進行していく。川島のクラスにやってきた筋肉質な転校生が大暴れする新喜劇的なコント『転校生』、現実を生きられない大人たちがファンタジーの世界にどっぷりと浸っている不思議な感動コント『ファンタジー組長』、様々なベッドインの方法を享受していく『アダムカナダのベッドイン講座』……レッドシアターの様なコント番組では見られない、しかし分かりやすい動きの笑いを多く含んだコントの数々は、彼らが確かに視覚的笑いを意識したコンビだということを証明していた。このまま終わってしまうのだろうか。彼らが目指している笑いを見つけることが出来ないまま、普通に単独ライブを堪能して終わってしまうのだろうか。そんな一抹の不安とも言えるような感情が、静かに僕の脳内で渦を巻いていった。世界は暗闇に閉ざされ、希望は闇へと沈んでいったのである。それは嘘だけど。

しかし、あるコントを観て、僕は遂に見つけることが出来た。これだ。これこそ、はんにゃの二人が本当にやりたかったことに違いない。そんな確信が、僕にはあった。何故なら、今作に収録されている副音声で、金田当人が実際に語っていたからである。……じゃあお前が見つけたわけじゃないじゃないか、というツッコミもあるかもしれないが、それはその通りである。うん。何はともあれ、僕は金田が「これをやりたいがために芸人になった」と言い切っていた(樅野談)というこのコントを観て、彼らの笑いに確信を持つことが出来たのである。良かった良かった。

そのコントのタイトルは『CM』という。はんにゃのテレビ番組のコマーシャルを放送するという設定で、実際には存在しない物を、まるで実際に存在しているものであるかのように、特に使用方法を説明することなく、紹介するというものである。中には金田のコミカルな動きを駆使したものもあったが、その大半は「紹介する物の名前」のみで笑いを生み出していた。

このコントで生み出されている笑い、それはニュアンスの笑いである。ニュアンスの笑いとはつまり、アンジャッシュの様な計算されたズレによって生み出される笑いとは反対にあたる、非常に感覚的で雰囲気的な笑いのことを意味する。簡単に説明するならば、誰しもが理解できるというわけではないが、感覚的になんとなく理解る笑い……そんなニュアンスの笑いこそ、はんにゃが追い求めているものだったのである。確かに、彼らの代表作である「ズクダンズンブングンゲーム」など、金田の奇抜な動きに意識を取られがちだが、その根底にあるのはニュアンスの笑いだった(ただ「ズクダンズンブングンゲーム」は、ニュアンスの笑いというよりも、何の意味も持たないナンセンスな笑いと言うべきなのかもしれないが)。

そうこうしているうちに、ライブはエンディングに突入する。「ズクダンズンブングンゲーム」を元に作られた歌を謎の女性歌手が熱唱し、その周りをはんにゃの二人が踊りまくるという、なんとも投げっぱなしなエンディングは、今の彼らだからこそ出来ることだろう。現在、事務所によって過剰にプッシュされ、様々なバラエティ番組で消費されているお笑いコンビ、はんにゃ。彼らがいつか、金田の動きに頼ることなく、その非常に曖昧なニュアンスの笑いを世間に提示できるのは、果たしていつの日か。


・本編(97分)

「はんにゃチャンネル開局セレモニー」「オープニング」「転校生」「かわしにゃんのカタカナ語講座」「ファンタジー組長」「護身術」「アダムカナダのベッドイン講座」「川島リサーチ」「4コ上」「ラブレターフロム金田」「アンチョロメンニンTVショー」「アダムカナダのベッドイン講座が本になりました!~「ほ~い。」TシャツCM」「未来からの訪問者」「新人類おしりとり」「CM」「川島リサーチ アゲイン」「はんにゃロードショー」「Syoginji NG集」「ミュージックはんにゃ」

・特典

「メイキング映像」(34分)

「はんにゃと樅野太紀構成作家)による副音声」