菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『bananaman live wonder moon』

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(2009/12/16)
バナナマン設楽

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バナナマンがバラエティ番組に出演している。彼らが既に名の知られた存在になっている今となってはごく当たり前の光景だが、一昔前には考えられなかった状況だ。かつてのバナナマンは、メジャーと呼ばれる場所から最も離れた、とてもアンダーグラウンドなポジションにいた。ちょっと油断したら誰かが死んでしまうような、独特の緊張感がある舞台を演じていた。そんな彼らが、今ではごく普通にバラエティ番組に出演し、テレビ芸を展開している。いくら諸行無常の世の中とはいえ、随分と変わったものである。

しかし一方で、変わらなくても良かったものが変わってしまうこともある。テレビへの露出量が増えることにより、メンバーの一人である日村の容姿が露骨にイジられるようになったのだが、その傾向が、ライブにも反映されるようになったのだ。あえて日村の顔に深くは触れないコントを作り続けてきたバナナマンにとって、それはあまりにも大きすぎる変革だった。その結果、一時期のバナナマンのコントは、かつてのアングラ風味な世界観に、日村の容姿イジリを中途半端に組み込むことによって、非常に残念な仕上がりとなっていたのである。……という話は、以前に書いたので省略する。ここまで書いておいて、なんだけど。

そんなこんなで、本来の持ち味を見せつつも自然に日村の容姿イジリを組み込んだコントを生産できるようになったバナナマン。単独ライブの完成度も年々向上しており、特に前回の公演『疾風の乱痴気』は非常に素晴らしい出来だった。そんな彼らの最新単独ライブ『wonder moon』。ここ数年の単独ライブのテーマだった“花鳥風月”シリーズの最後に当たる今作は、前作の傾向を残しつつも、よりファンタジー色の強い、とても幻想的な雰囲気に満ちたライブになっていた。テーマが“月”だということが、大きく関係しているのかもしれない。

実際、ライブで披露されているコントの多くは、そのシチュエーションからして幻想的だった。月に帰らなくてはならない日村と設楽の友情物語『wonder moon』、日村が演じる奇妙な妖怪と少年の交流を描いたジュヴナイルコント『the melancholic』、謎な男に惹きつけられていくフリーライターのドラマ『4』など。それらのコントによって構築された今作は、まるで一つのファンタジー小説を読んでいるかのように、非現実的な世界へと僕らを飲み込んでいくのだった。

……が、ある幕間映像をきっかけに、僕らは現実へと急速に引き戻される。その映像とは、最後に収録されているコント『swear to the moon in Hawaii』の直前に収録されている「日村はコーラを2秒で飲めるか?」だ。……タイトルだけで、なんとなく内容は想像できるのではないだろうか。恐らく、その想像は当たっている。コーラを2秒で飲み干すと宣言して一気にあおってみせるが、炭酸の勢いで何度も吹き出してしまう日村の醜態は、僕らを幻想的な世界から現実に引き戻すのに十二分過ぎるほど強烈なものだった。

もし、最後の最後までライブの雰囲気を幻想的なものとして完成させていたとしたら、きっとこのライブは各方面から称賛を浴びていたことだろう。でも、彼らはそれをやらなかった。いや、出来なかったのだろう。これはあくまで妄想だが、彼らはそのままの空気を維持したままライブを終わらせることに、何か恥ずかしさの様なものを感じていたのではないだろうか。まあ、そういうところが、彼らの良さと言えるのかもしれないが。

来年の単独にも、また期待したい。


・本編(138分)

「wonder moon」「hasty」「不良」「the melancholic」「月とすっぽん」「4」「冷蔵庫のあまりもので作るおかず」「Happy Birthday」「稽古場にて」「赤えんぴつ」「日村はコーラを2秒で飲めるのか?」「swear to the moon in Hawaii」