菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『六人の侍』

六人の侍 [DVD]六人の侍 [DVD]
(2009/12/23)
河本準一(次長課長)小出水直樹(シャンプーハット)

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ある特定の日本人にとって、“侍”という言葉は特別な意味を持っている。それは例えば、古き良き日本のオトコ(田んぼに力と書く方ではなくて、漢字のカンと書く方)の代名詞として使用される。「今の日本人は軟弱でイカン、もっとオトコはオトコらしく生きなくてはイカンぜよ!」ってな具合に。特に意味はないが、土佐弁にしてみた。そういえば侍の代名詞としては、坂本龍馬が取り上げられることが多い気がする。むしろ坂本は、当時の侍とはまったく反対の考えを持った人だったと思うのだが、まあいいや。

侍の持つイメージといえば、おおよそそういう感じである。実際の侍は傲慢でろくでなしが多かったらしいが、まあ現実のソレなんてどうでもいいのである。とにかく侍はカッコイイ! そんでもって、クールで渋い! ……というイメージが、一部の人たちには定着している。そうじゃなければ、野球チームの通称だかなんだかに“サムライジャパン”とか命名しないし、長渕剛エレファントカシマシといった男臭さムンムンなミュージシャンが猿一匹だの昔のなんたらだの歌ったりもしないだろう。ただ、このところは単に「日本人の男=侍」みたいな、非常に漠然とした扱われ方をしている気もする。ふむ。

今作『六人の侍』における“侍”に、恐らく深い意味はない。これは単に、黒澤明監督の名作『七人の侍』をパロっただけだろうから。そういえば『七人の侍』って、一度も観たことがない。傑作というからにはきっと面白いのだろうが、この時代の映画というと、漠然と重苦しいイメージがある。またもイメージだ。自分の知らない出来事は全てイメージで片付けてしまうのは、悪い癖である。とっとと治そう。

『六人の侍』は、河本準一次長課長)、小出水直樹シャンプーハット)、フットボールアワー山里亮太南海キャンディーズ)、諸岡立身の六名によるユニットコントライブのタイトルだ。このライブ、かつては大阪の2丁目劇場で開催されていたが、その人気の高さからルミネtheよしもとなどでも開催されるようになったのだそうだ(fromお笑いナタリー)。なるほど。とどのつまり、東京ヌード(おぎやはぎドランクドラゴンアルファルファ(現・東京03)によるコントユニット)みたいなもんだ……と思ったら、違うらしい。

このライブには、三つのルールがある。一つ目は「六人がそれぞれコントを一本書くべし」。二つ目は「自分が書いたコントには出演してはならぬ」。三つ目は「自分以外の五人は自由に使うがいい」。つまり、この『六人の侍』というライブは、自らを除いたメンバー五人のコントをプロデュースするライブなのである。なかなか面白いコンセプトだ。書く立場の芸人は脚本で自らの世界を純粋な状態で提示することが出来るし、演じる立場の芸人は役者としての実力を発揮することが出来る。

勿論、コント自体のクオリティも高かった。少年と老人と腹話術人形の一風変わった関係を描いた小出水直樹作『亮太』、不可思議な上下関係を表現して見せた諸岡立身作『サンカク関係』、家にやってきたペットが日に日に巨大化していく後藤輝基作『ミミちゃん』など、かなり不思議でシュールなコントばかりが披露されていたように思う。個人的には、ズリネタをこっそり人の立ち寄らない洞窟に隠した学生たちが、そこを取材にやってきたテレビ班を前に慌てふためく山里亮太作『大蛇伝説』が好きだった。なんというか、らしい感じがして。

ただ、一人が五人の芝居を総合プロデュースしているような感じになっているためか、ユニットコントならではの化学反応が起きなかったのは、ちょっと残念だったなあ。やっぱりユニットコントというと、「ザ・ドリームマッチ」みたいな、普段はあまり見られない芸人同士のやりとりに期待してしまうんだけど、今作にはそういったものがまったく感じられなかった。まあ、このコンセプトでやる以上、そうなっても仕方がないんだろうけど。だから、全体的にとっても出来は良いんだけれど、爆発的な笑いはなかったなあ。うーん。


・本編(87分)

「亮太(小出水直樹・作)」「サンカク関係(諸岡立身・作)」「冤罪先生(岩尾望・作)」「ミミちゃん(後藤輝基・作)」「大蛇伝説(山里亮太・作)」「HAKO(河本準一・作)」

・特典映像(68分)

「エンディング曲製作秘話」

「東京都内修学旅行」