菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『ようこそ桜の季節へ』

ようこそ桜の季節へ [DVD]ようこそ桜の季節へ [DVD]
(2009/12/23)


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女性芸人は面白くない、などと言われていた時代がもはや懐かしい今日この頃。もしも今、そんなことを上から目線で言ってしまった日には、顰蹙なんて言葉では片付けられないほどのバッシングを食らってしまうことだろう。或いは、呆れられて、周りから無視されてしまうか。どっちにしても、ろくなことにはならないだろう。もはや、そういう風に言われていた時代があったこと自体が無かったかのように、今では女性芸人たちが当たり前にテレビで活躍している。

近年のお笑いブームにおいて、「女性芸人は面白くない」という常識を最初に打ち砕いた芸人は、恐らく田上よしえである。お笑いブーム前夜、ほぼ唯一無二も若手芸人登竜門番組だった爆笑オンエアバトルにおいて、彼女は若手の女性ピン芸人というシビアな立場にありながら、老若男女に受け入れられる世界の笑いを世に送り出していた。その後に続くように、青木さやかだいたひかる友近といった女性ピン芸人たちがその才能を開花させ、だんだんと「女性芸人でも面白い」という空気になっていく。

……と、つらつらとここまで書いてみたが、この時点で違和感を覚える人も少なくないのではないかと思う。というのも、この「女性芸人は面白くない」と考えられていたとする文章は、厳密に言うと正しくないからだ。実は「女性芸人は面白くない」という論理には、一つの例外が存在している。その例外とは、ブサイクであるということだ。性の対象であるということを感じさせないほどにキャラクター化している女性=ブサイクは、古くから世間に受け入れられていた。つまり、田上よしえが打ち砕いたのは、「ブサイクではない女性芸人は面白くない」という概念だったのである。まあ、田上も決して美人といえるタイプではなかったが。しかし彼女以後、これまでとは比べ物にならないほどに美人な女性芸人たちが次々に登場し始めたことは、間違いない事実である。

女性お笑いコンビの“桜”もまた、そういった流れの中にあるお笑いコンビの一組だった。NSC大阪校女性タレントコース出身の稲垣早希増田倫子によって結成されたこのコンビは、他の女性芸人とは一線を画するほどに美しかった。もちろん、ただ美しいだけではない。ただ美しいだけの女性芸人なら、そんじょそこらに割といる。桜は美しいだけではなく、確固たる面白さを持ったコンビだった。それも、その美しさが何の意味も持たなくなるほどの、とてつもない変化球型の面白さを。

桜が世に知られるきっかけを生み出したのは、彼女たちがM-1グランプリの予選で披露していた「エヴァ漫才」であることは間違いないだろう。「エヴァ漫才」とは、稲垣が「新世紀エヴァンゲリオン」の登場人物の一人である惣流・アスカ・ラングレーに扮し、様々な状況をエヴァに絡めて表現するという、ややオタク度の高いスタイルの漫才だ。この稲垣の異常に完成度の高いアスカ物真似が一部で話題となり、また当時「機動戦士ガンダム」の主人公アムロ・レイの物真似ネタで人気を博していた若井おさむや「ドラゴンボールZ」の登場人物ベジータの物真似ネタが注目され始めていたR藤本らの存在があったことも手伝って、彼女たちの知名度を向上させた。このまま順調に芸の道を歩んで行けば、売れっ子のコンビになることは約束されたも同然だった桜。しかし、2009年10月、公式ブログにてメンバーの増田が桜としての活動を終了することを表明する。それはつまり、事実上のコンビ解散を意味していた。

今作『ようこそ桜の季節へ』は、コンビとしての桜の姿を収めた最初で最後の単独作品だ。2009年8月に行われた単独ライブ「桜の季節~2分咲き~」に加え、DVD用に撮影された映像を収録している。ちなみに、構成には元大脇里村ゼミナール里村仁志が参加。流石、元オタク芸人。

エヴァ漫才」で注目を浴びた桜の単独ライブは、やはりオタク向けのコントがメイン。アニメのネタをあちらこちらに散りばめた天気予報をお送りする『お天気お姉さん』、稲垣演じる人気声優が声優の世界では人気があると思われるアフレコの仕事をこなしていく『声優』、お馴染みのネタかと思いきや中盤からエヴァのストーリーについて説明する講座へと発展していく『エヴァ漫才』などなど……稲垣ばかりではなく、スポーツ好きな増田をクローズアップしたコント『コンパ』も収録されており、なかなかバランスが取れたラインナップだといえる。オタクネタも、『はりけ~んず前田 単独オタクコントライブ 登風』に比べたらかなり一般に寄っていた印象が強い。意外と一般ウケのしやすい作品なのかもしれない。二人の演技には些かの緊張が見られたが、それでも一つ一つのコントを丁寧に演じていく姿には、少なからず好感が持てた。このままコンビとしての活動を続けていけば、今よりも面白い笑いを披露することが出来ただろう。改めて、惜しい。

コンビとしての桜はこれで終了だが、桜という名前は今後も稲垣が引き継いでいくという。「女の子らしい」という理由で増田が名付けたこの名前を背負い、稲垣はいつまでも清く正しく美しく、桜の様に凛とした態度で笑いに立ち向かっていくことだろう。萌え出づる春を迎える日まで。……こじつけ?


・「桜の季節」(59分)

「オープニング」「コント「シンデレラ」」「コント「お天気お姉さん」「コント「コンパ」」「コント「声優」」「エヴァ漫才」「桜のお話」「エンディング」

・「桜の冒険」(45分)

「♪「スイーツ乙女」」「桜のおでかけ」「紅ずきん」「増田倫子のやってみよう!」「稲垣早希のやってみよう!」「♪「アマゾン腐女」」「ベリーダンスでセクシー早希ちゃん」「メイドでプリティー倫ちゃん」

・「お楽しみ」(7分)

「キンチャク」「つぼみ」