菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『さまぁ~ずライブ7』

さまぁ~ずライブ7 初回限定版 [DVD]さまぁ~ずライブ7 初回限定版 [DVD]
(2010/01/06)
さまぁ~ず

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以前から言っていることだけれど、僕はアンタッチャブルザキヤマのことを高く評価している。その評価のきっかけとなったのは、2009年のお正月に放送された「爆笑ヒットパレード」だ。その番組で彼は、当時人気を博していた音楽ユニット“羞恥心”のライブステージに乱入して、歌っている三人の背後でコミカルな動きをするパフォーマンスを行っていた。羞恥心はそもそもバラエティ番組から生まれたユニットだったので、そういった芸人がステージに乱入する様なコミカルな事態に対して、他の音楽ユニットよりも許容しやすい空気があったということも考えられるが、それでも、そのザキヤマの乱入はあまりにも面白くて、カッコ良かった。

それから一年、僕はバラエティ番組にザキヤマが出演している場面を観るするたびに、彼の強引でコミカルな笑いの空気で爆笑し続けてきた。まったく笑わなかったことなんて、たぶん一度も無かったんじゃないかと思う。まるでパブロフの犬。鈴を鳴らしながらエサを出してもらっていた犬が、最終的に鈴が鳴るだけでヨダレを流してしまうが如く、僕はザキヤマの姿を目撃するだけで爆笑していた。そのうち、ザキヤマを見なくては笑えない身体になってしまった僕は、もはやザキヤマの存在無しには生きていけない身体になってしまったのである。そう、これこそ、ザキヤマの真の恐ろしさなのであった。嘘だけど。

そんなザキヤマの漫才を、今年の正月番組で観る機会があった。バラエティで既にザキヤマの面白さを堪能していた僕は、当然、コンビとしての漫才にも熱い期待を寄せていた。そもそも、M-1グランプリで結果を残したことで注目され始めたアンタッチャブルの漫才が、つまらないわけがないじゃないか……と考えていたのだ。ところが、予想は大きく裏切られてしまう。以前から、アンタッチャブルの漫才は「話の筋に従う様に見せて実は無関係に暴走するザキヤマ」と、「そのザキヤマの暴走を寸止めして話をきちんと進めようとする柴田」のやりとりが魅力だったのだが、その時の漫才はあまりにもザキヤマの暴走が激しく、漫才としての体裁が崩壊してしまっていた。バラエティ番組で培われてきたザキヤマの笑いは、それ以前に作られていたアンタッチャブルの漫才師としての笑いを吹き飛ばしてしまったのである。お笑い芸人がタレントとして活躍するようになると、芸人としての手腕が鈍ってしまうというのは、割と頻繁に起こっていることだが、アンタッチャブルがそういった状況に陥る日が来るとは思ってもいなかったので、大変に驚いてしまった。

今作におけるさまぁ~ずもまた、同様の状態に陥っている。が、さまぁ~ずの場合、やや状況が違う。

近年のさまぁ~ずはバラエティ番組で高く評価され始めており、特に深夜帯で放送されている冠番組は、その大半がDVDシリーズ化されるほどの人気を博している。僕も何度か『モヤモヤさまぁ~ず』を見たことがあるけれど、二人のユルーいノリと風景に対するキメ細かいツッコミが、とても面白かった。近所のレンタルビデオで過去のDVDが貸出されているので、近いうちに借りてみたいと思う。私信。

今作には、四本のロングコントが収録されている。一般人の三村が奇妙な人物の大竹にレクチャーを受けるというさまぁ~ずコントの王道を行った『リハビリ』、ライブのために作られたよく分からない曲を大竹や客演のつぶやきシローが調理する『スナック』、旅行でハワイにやってきた三村が独りでドルフィンツアーに乗り込む『イルカ』、福引きの時間が来る前日から並び続けている大竹と三村のやりとりが続く『福引き』……いずれも、それなりに面白かった。ただ、それなりでしかない。バラエティで見せている二人の笑いに比べて今作で披露されている笑いは、火を見るよりも明らかに弱かった。

恐らく、今のさまぁ~ずは、数々のバラエティ番組へ出演することによって、アドリブから笑いを生み出す能力を向上させている。彼らがロケで街中を徘徊する人気番組『モヤモヤさまぁ~ず』も、彼らのアドリブ能力が高くなければ成立していないだろう。このアドリブで笑いを生み出す能力というのは、つまり「不規則に向かってくる素材を笑いに昇華する能力」である。もっと簡単に言うならば、「どんな形で向ってくるか分からない森羅万象のフリに対応する能力」だ。しかし、コントにおけるさまぁ~ずは、この能力を殆ど活かさない。ところどころにアドリブを挟みこむことはあるものの、基本的には作られたボケとツッコミで作られた流れを辿っているだけだ。勿論、それがいけないということはない。でも、今のさまぁ~ずには、そういう笑いを作りかたは似合わない。

2000年にバカルディからさまぁ~ずへと改名して以後、定期的に単独ライブを行ってきた彼ら。しかし、そろそろ一度、単独ライブから離れてみるのもいいのではないだろうか。タレントとしてバラエティの活動をする一方で、芸人として舞台の活動をするというスタンスは評価したいが、それがイイ結果を生み出していない現状を考えると……むー。はっきり言ってしまうと、これから先のライブでうっかり醜態を晒してしまうようなことだけはしてもらいたくないのである。偉そうな物言いだけれど。もっと面白いものを作るための充電期間を考えてもらいたい、そんな印象を受ける作品だった。次だっ、次!


・本編(94分)

「OP/最高レベルの低い先輩」「OPENING VTR」「リハビリ」「キャラ弁を作ろう」「スナック」「イルカ」「だまし絵」「福引き」「ENDING VTR」

・特典映像(6分)

「メイキング」