菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

マイコーりょう『THIS IS FAKE』

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(2010/01/27)
マイコーりょう

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僕が子どもだったころ、具体的に書くなら小学一年生だったころ、僕の将来の夢は「妖怪博士」になることでした。妖怪博士とは、もちろん江戸川乱歩の小説のアレではなく、『ゲゲゲの鬼太郎』『悪魔くん』『カッパの三平』などの傑作を世に生み出したことで知られている妖怪漫画家、水木しげる氏のことです。

とはいえ、別に漫画家になりたかったわけではありません。確かに、当時から僕は漫画を読むのが大好きでしたし、日夜ノートの端っこに色んなキャラクターの落書きもしていました。でも、僕がなりたかったのは、あくまでも漫画家ではなく、妖怪博士という存在だったのです。具体的に何をする仕事なのかは分かりません、そもそも仕事かどうかすらも分かりませんでしたが、「妖怪博士」という言葉の響きに、漠然とした憧れを抱いていたのかもしれません。

野球選手になりたいだとか、漫画家になりたいだとか、なろうと思えばなれないこともないかもしれない仕事ならまだしも、世の中には、新幹線になりたいだとか、ニンジンになりたいだとか、かなり無茶な夢を抱く子どもも少なくないと聞きます。そんな子どもたちの夢に比べれば、僕がかつて抱いていた妖怪博士の夢は、まだ幾らか現実的であったといえるのかもしれません。

彼は、マイケル・ジャクソンになることを、夢見ていました。マイケル・ジャクソンの様なダンサー、ではありません。マイケル・ジャクソンになることを、夢見ていたのです。彼は、そんな非現実的な夢を追いかけ続け、本当にマイケル・ジャクソンになってしまいました。彼の名前は、マイコーりょう。日本で初めて、マイケル・ジャクソンのインパーソネーターであることを名乗った人物です。

インパーソネーターとは、日本でいうところのモノマネ芸人に当たるそうです。ただ、いわゆる有名人の動作や声質を真似ているだけのモノマネ芸人に対し、インパーソネーターは徹底的にその人物になりきります。海外には数多くのインパーソネーターが活動しているといわれていますが、日本ではまだまだ一般的な存在ではありません。今作『THIS IS FAKE』は、そんなインパーソネーターという概念を日本に広めようとしているマイコーりょうが、2009年10月に行ったライブ「サンキューParty」の様子を収録したものです。

マイコーりょうの芸といえば、マイケル・ジャクソンのインパーソネーターとしての芸よりも、マイケル・ジャクソン風に歌われる邦楽パロディの方が印象的です。今作でも様々な邦楽が、マイケル・ジャクソン風にアレンジされています。そんな彼の芸を観て、腹を立てる人もいるかもしれません。「MJを汚すな!」と感じる人もいるかもしれません。しかし、晩年はゴシップばかりが取り上げられていたマイケル・ジャクソンの容姿や周囲を一切イジらずに、彼の歌唱法やダンスといったパフォーマーとしての要素のみを取り入れたマイコーの芸は、間違いなくマイケル・ジャクソンに対する敬意と愛情に満ち溢れていました。

生前のマイケル・ジャクソンのライブリハーサル風景を収めたドキュメンタリー『THIS IS IT』とは、ある意味まったく逆の立場からマイケルに対する愛情を綴っている今作。マイコーりょうのことが好きな人はもちろんのこと、マイケル・ジャクソンのことが大好きな人にもオススメできる、素晴らしい作品でした。皆で一緒に「ネバーランドに来ないか?」。


・本編セットリスト(63分)

One Night Carnival氣志團)』『UFO(ピンクレディー)』『きよしのズンドコ節(氷川きよし)』『ゲゲゲの鬼太郎泉谷しげる)』『崖の上のポニョ藤岡藤巻と大橋のぞみ)』『古い日記(和田アキ子)』『MJパフォーマンスダイジェスト』『Yeah! めっちゃホリディ(松浦亜弥)』『アンコール:浪花節だよ人生は細川たかし)』『アンコール:One Night Carnival氣志團)』

・特典映像(21分)

本編に収録されている幕間映像の観客声無しバージョン