菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

ロッチ単独ライブ『ロッチラリズム』

ロッチ 単独ライブ 「ロッチラリズム」 [DVD]ロッチ 単独ライブ 「ロッチラリズム」 [DVD]
(2010/02/24)
ロッチ

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はんにゃ、フルーツポンチ、柳原加奈子といったフレッシュな面々が名を連ねている「爆笑レッドシアター」のレギュラーメンバーにおいて、ロッチの存在は異様だ。若手芸人ならではの新鮮味もなければ、芸人としてのポテンシャルが高いわけでもない。そんな彼らは、なにやら違和感にも似たオーラを身にまといながら、番組でネタを繰り広げている。

とはいえ、ロッチが実力者であるということは、疑いようのない事実だ。そのことは、彼らが他の“フレッシュな”爆笑レッドシアターのレギュラーメンバーであるしずる・ジャルジャルとともに、日本一のコントを決定する「キングオブコント2009」決勝の舞台に進出している事実が証明している。結果は八組中六位と、あまり褒められたものではなかったが。

そんなロッチのコントの面白さを説明するのは、あまり容易なことではない。というのも、彼らのコントは、その表面的な部分で行われていることはとてもシンプルなのだが、それが笑いに繋がっている理由について考えてみると、これがなかなかに興味深いからだ。

彼らが「キングオブコント2009」で披露したネタに、『巨乳かメガネか』というコントがある。このネタは、喫茶店で働いている二人の男性(うち一人は店長)が、ウェイトレスのバイトとして誰を採用するか、履歴書を見ながら考えるという内容だ。店が提示している労働条件に適しているのは、明らかにメガネの女の子の方なのだが、二人が気になっているのは、巨乳の女の子だ。このコントにおいて、彼女は一貫して「巨乳の子」と呼ばれている。おそらく、余程の巨乳なのだろう。

二人は、出来ることならば、巨乳の子を採用したいと考えている。しかし、ここで何の理由も無く巨乳の子を採用するのは、なんだか体裁が悪い。そこで二人は、お互いの欲望を隠しながら、巨乳の子を採用する理由を必死に模索し始める。そんな二人の情けなさが、このコントでは笑いに繋がっている。

この『巨乳かメガネか』に限らず、彼らのコントには、とかく情けない人たちが登場してきた。砂漠で遭難中にウンコを踏みつけてしまう旅行者、釣りの素人に指南しようとするも全てが裏目に出てしまうベテラン釣り師、まったく知られていないのに他人に声をかけられたらついその気になってしまうエキストラ俳優……そんな彼らの、情けない行動が醸し出す味わい深い哀愁と、妙なリアリティから生じる共感。これこそ、ロッチの唯一無二の個性であり、彼らが「爆笑レッドシアター」のレギュラーになることが出来た要因だったのではないかと、僕は思うのである。

2009年10月に行われたロッチの単独ライブを収録した今作においても、彼らは様々な情けない人たちを演じている。友人の真剣な話を聞こうとしているのだが、それよりも口に放り込んだアツアツのタコ焼きが気になって仕方がない『ハフハフ』。どうにかして修行に女の子を参加させたい坊主二人の必死な姿を描いた『ボウズ』。ゴリラの飼育係からパンダの飼育係になったことで調子に乗っている後輩を見る先輩飼育係の哀愁漂う『猿渡』。市井の人たちが繰り広げる情けないシチュエーションが生み出す笑いが、そこには変わらず存在していた。

ただ、今回のライブで披露されているコントは、以前に比べてフィクション性が強まってきたようで、ところどころに違和感の様なものも感じさせていた。例えば、前作「ラストベストロッチ」に収録されている『砂漠』の続編的コント『インパラ』において、インパラが亡くなったことを異常に強く受けとめる中岡の姿は、コミカルだが流石に無理があるように思えた。情けなさが生み出す笑いのバリエーションを広げるのは決して悪いことではないが、その工程で無理を感じさせるのは、あまり良いことではないだろう。

今後、ロッチはその笑いの幅を広げるとともに、それを自然に見せる構成力を身につける必要があるだろう。そして恐らく、彼らにはそれを身につけられる程の余白があるのではないだろうか。今年のキングオブコントで、彼らがどのような結果を残すのか。期待、期待。


・本編(71分)

「オープニングコント」「インパラ」「ハフハフ」「学園祭」「ボウズ」「猿渡」「ユーモアスクール」「元カノが…」「無の境地」

・特典映像(13分)

「ロッチの知名度調査in巣鴨」「中岡のひとりごと」「中岡柔道優勝」「コカドのこだわり」「ロッチグッズCM」