菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『U字工事 5ミニッツ・パフォーマンス ごめんねごめんね~』全評

U字工事 5ミニッツ・パフォーマンス ごめんねごめんね~ [DVD]U字工事 5ミニッツ・パフォーマンス ごめんねごめんね~ [DVD]
(2010/03/03)
U字工事

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5ミニッツ・パフォーマンスとは、BSフジとポニーキャニオンが共同で制作しているバラエティ番組シリーズのことだ。特定の芸人が中心となって、五分の間に漫才・コント・ドラマなどの様々なパフォーマンスを披露するシリーズで、過去に関根勤(二回)や劇団ひとりが出演している。そんな5ミニッツ・パフォーマンスの最新作に選ばれたのは、史上初のコンビ芸人U字工事である。過去二人の芸歴を考えると、かなりの抜擢だと言えるのかもしれない。

このシリーズの後継にU字工事が選ばれたと聞いたときは、正直言って驚いた。というのも、過去のシリーズに選ばれた関根勤劇団ひとりはそれぞれ芸風に幅のあるオールラウンドプレイヤーとしての才能に満ち溢れていたが、U字工事はその芸人としてのアイデンティティが「栃木県」及び「田舎の泥臭さ」に限定されているため、このシリーズの様に様々なパフォーマンスを披露するスタイルの番組には向いていないのではないか、という危惧があったからだ。しかし、これがまったくの的外れで、ちゃんと彼らはその限定されたアイデンティティの中から、彼らが求められているだろうポイントをきっちりと抑えた笑いの数々を、この作品において提示していたのである。というか、そもそも「爆笑オンエアバトル」で十七連勝という記録を残している彼らのネタのバリエーションを心配すること自体が、そもそもの間違いだったのだ。反省、反省。

今回は、その収録されている全十本のパフォーマンスについて、解説というか感想の様なものを挟んでみることにした。なんとなく、漠然と「五分間のパフォーマンスって爆笑オンエアバトルっぽいな」と思い立ち、オンバトの感想文と同じ形式にしてみようと思ったからだ。もちろん、爆笑オンエアバトルにおけるパフォーマンスと、この番組におけるパフォーマンスとでは、大きく勝手が違っているように思う。何も勝負事の絡まない現場で、U字工事は果たしてその与えられた五分間を如何に使い切るのか? 刮目せよ。

なおネタ中は、バラエティ仕様で効果音が多用されている。そういう演出が苦手な人は御注意。

 

「ミーティング」

コント。楽屋で食事中の後輩コンビと福田の元へ、一昔前のアイドルの様な恰好をした益子が現れる。益子は「今後、U字工事が芸能界で生き残るために必要なもの」を三人の前で説明し、次々に対策案を提示していく。U字工事が人気のある漫才師だということを前提としたネタで、あまり初見の人向けではない。が、そもそもこの作品に手を出している人の大半は、彼らのことを当然の如く知っているだろうから、特に問題は無い。益子が説明する「売れるためにやるべきこと」の的外れっぷりが面白いコントだが、ところどころに田舎臭さが滲み出ている点がなんとも彼ららしい(果物をワイルドに食べる動作が「野菜泥棒だろっ!」とツッコまれるくだりとか)。最後には、久しぶりにあの禁断のギャグが披露されている。ちょっと勢いがなくなっていたような。

「かんぴょう」

栃木漫才。栃木以外の北関東圏を咎めるマクラから、「栃木のかんぴょう農家が減っている」という本編へ。益子の“栃木県至上主義”な立場から語られる数々のかんぴょう話があまりにも局地的過ぎるために笑えるのだが、一方で、彼ほどではないにしても同様に地元至上主義的な考え方をしている人は決して少なくないのではないかという気もするため、彼の言動はむしろ地元至上主義という局地的な感覚を反面教師的に笑っているのではないか、という考えも浮かんでくる。事実、益子のかんぴょうの話は、その実際の長所について説明するたびに、短所も浮き彫りになってしまうという裏目が笑いとなっている部分も多い。実はとても強かなコンビなのかもしれない。

「ネタ作り」

コント。ライブ終了後の楽屋を舞台に、飲み屋で後輩と盛り上がりたい福田が、きちんとネタ合わせをやりたい益子から逃れるためにアレコレと思案する。一本目の「ミーティング」と同様、彼らが有名であるということが前提となっているコントだが、先のネタが益子のボケを一方的に受け続けるスタイルだったのに対し、こちらは益子に対して福田が仕掛けていくスタイルを取っている。しかし、やはり笑いの主軸となっているのは、福田の仕掛けに対する益子のリアクション。U字工事のフロントマンはやはり益子だということを、改めて感じさせられるコントだ。

「教習所」

漫才。車を運転したいがペーパードライバーな福田に益子が「初めて教習所に行った時のことを思い出せばいい」と助言する流れから、教官と生徒の漫才コントへ。益子が演じる下らない冗談を何度も言ってみせるニヤケ教官が、如何にも田舎の教官といった感じでリアリティがある。そんな教官にちょっとずつ苛々していく福田も、またリアル。それに加え、ノリで一日目から路上教習を始めてしまう場面や、ジャスコが出来て道路が混んでいるという場面など、田舎の情景のリアリティが生半可なものではない。普通、彼らの様なスタイルの漫才をするとき、十把一絡げの漫才師たちは「田舎者×都会者」という安易な公式を作り出そうとするが、彼らは「偏執的な田舎者×真っ当な田舎者」という公式によって漫才を生み出している。この漫才から尋常じゃない田舎臭さが漂っているのは、そんな公式によるところが大きいのではないだろうか。髭男爵も、この路線で行けば良かったんじゃないかしらん。

「事務所の先輩」

コント。番組収録前の楽屋で緊張しているU字工事の二人。と、そこへ、大木凡人が現れる。二人が緊張していたのは、番組の収録に事務所の先輩が来るためだったのだ。挨拶をそこそこに済ませ、二人は明日のスケジュールの話を始める。すると、その話に大木がいちいち絡んできて……。今作に収録されている十本のネタの中で、唯一U字工事以外の人物をクローズアップしたネタである。最近、サンドウィッチマンの単独ライブの特典映像にも、大木氏は出演していた。ひょっとしたら、ちょっと売れようとしているのだろうか。だとすれば、何故に今なのか。色々と謎は残るが、とりあえず昭和のノリをU字工事に伝授しようとする大木氏の姿は、なにやら不思議な空気を醸し出していて、じんわりと面白かった。

「飲酒検問」

漫才。福田の好きなテレビ番組が「警視庁24時」だという話から、飲酒運転の取り締まりシーンの漫才コントへ。「教習所」と同様に田舎臭さの満ちた漫才だが、中盤でデューク更家が出てくるところに、ネタではないリアルな古臭さを感じた。どうして今、あえてそこを取り上げたのか。もっと他にネタがあったんじゃないのか。ひょっとしたら、ただ単に昔のネタをそのままやっただけなのかもしれないが、それにしても急に名前が出てきたので些か驚いた。まさか今の時代に、何の混じりッ気もなくデューク更家の歩行をボケに使用する姿が見られるとは、思ってもみなかったぞ。

「田舎に泊まりたい」

コント。「田舎に泊まりたい!」レポーターの福田が、家に泊めてもらうために益子演じる農家の人に交渉する。先にも少し触れたが、どうして益子は田舎の中年男性を演じるとこんなに上手いのか。話しかけてくるレポーターを近所の住人だと思って「回覧板なら縁側置いといてー!」と応える姿や、テレビカメラを見てテンションが急に上がり「母ちゃん!テレビ!ダーツの!ダーツの!」と叫ぶ姿などは、まるで実在の映像を見ているかのようだった。そのリアリティ故に、その後二人の関係が険悪になってしまう展開が、ちょっと残念に思えてしまった。もう最後までテレビに舞い上がってる田舎の中年男性をそのまま演じ切っても良かったんじゃないかなあ、と。まあ、それをやってしまったら、きっと飽きてしまうんだろうけど。

「高校受験」

コント。福田演じる入学試験を受ける生徒が、益子演じる試験官の先生の発言にツッコミを入れ続ける。これまでの、二人のやりとりで成立するコントとは違い、ボケもツッコミも基本的に一方通行で流れていくスタイルのネタだ。そのアイデンティティはこれまでのネタと同様に“田舎臭さ”なのだが、見せ方を変えることで印象を僅かに変えているところがミソ。これまでのネタに比べてフィクション性が僅かに高いのは、途中でボケがツッコミによって遮られないためなのだろうか?

「引っ越し」

漫才。世田谷に引っ越した福田に対して、再び栃木の不動産屋にお世話になる可能性があるから練習しておいた方がいいんじゃないか、という益子の強引な導入から漫才コントへ。不動産屋をテーマにしたネタといえば、その物件を使って大喜利形式でボケるのが基本だが、彼らはそれをせずに、アパートまでの道筋から部屋の案内までの管理人の行動に注目している点が興味深い。もしかしたら、U字工事の漫才における田舎的人物の描写が醸し出すリアリティは、彼らがボケることを重視するのではなく、ボケを発する人物を重視しているからなのではないか、という推測を立ててみる。あくまで推測。

「キャバクラ」

コント。お客としてやってきた二人組を、U字工事演じるキャバクラ嬢が接待する。女装が似合わないことが明確である益子は当然のことながら、福田の女装がまったくもって似合わない。都会からやってきた客と田舎で暮らしているキャバクラ嬢の発言のギャップが明確に笑いとなっているが、先に書いた「田舎者×都会者」の公式に落ち着いてしまっているため、笑いとしては些か物足りず。チャプターとしては最後のネタということになっているが、どちらかというと最後のオマケ的なネタという意味合いで捉えるべきなのかもしれない。


・本編(63分)

・特典映像(24分)

「スナック(漫才)」「U字工事に質問コーナー!」「大木凡人 5ミニッツ・パフォーマンス?」