菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

シティボーイズミックス『そこで黄金のキッス』

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(2010/03/24)
シティボーイズ

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ラーメンズバナナマンバカリズム……関東を代表する中堅コント師たちが人気を集めている昨今において、どうしてシティボーイズがもっと注目されないのか、不思議で仕方がない。方向性は先の三組と同様、というよりも先駆者であるにも関わらず、若い人にそれほど注目されていないと現状は、なんとも不可解だ。……とはいえ、その状況がまったく納得のいかないものであるかというと、そうでもない。その出自が明確ではないものに興味を抱くというのは、あまり簡単なことではないから。と、いうわけで、簡単にシティボーイズについて説明する。

シティボーイズは1979年、劇団に所属していた大竹まこと・きたろう・斉木しげるの三人によって結成された。イッセー尾形キッチュ松尾貴史)、とんねるずウッチャンナンチャンなども出演していたバラエティ番組「お笑いスター誕生!!」で人気を博す。それ以後、現在に至るまで、コント師としての活動を続けている。そんな彼らのコントを一言で説明するならば、“ナンセンス”である。「後には何も残らない、何も残さない」を信念としたその舞台は、常に意味の持たない笑いに満ち溢れている。

そんなシティボーイズが現在行っているライブが、“シティボーイズミックス”だ。このライブは、シティボーイズの三人に複数名のゲストを混ぜる(ミックスする)というコンセプトの元に、2001年から行われている。過去には、中村有志いとうせいこう犬山犬子、YOU、チョップリンピエール瀧など、シティボーイズと親交のある面々がゲストとして出演している。中でも中村有志は、過去のシティボーイズミックス全てにゲスト出演しており、ライブには欠かせない存在だ。その存在感は、ファンの間で“第四のシティボーイズ”と囁かれるほど。

今作『そこで黄金のキッス』は、シティボーイズミックスとしては九回目の公演に当たる。また、シティボーイズが結成されて、三十年目という節目に行われたライブでもある。今回の公演には、毎度お馴染みの中村有志に加え、数多くのシティボーイズミックスを演出してきた細川徹大人計画)、今回のライブでは作家としても参加しているふじきみつ彦、そんなふじきが作家として参加しているコントユニット「Nの方向」に役者として参加している春山優がゲストとして出演。過去の公演と比べてとても地味で内向的なゲスト達だが、逆に言うと、ゲストに頼らずに面白いものを作り出そうという意欲の表れだったと言えるのかもしれない。

そんな意欲的な姿勢が功を奏したのか、『そこで黄金のキッス』はここ数年で最も攻撃的で最もナンセンスに満ちたライブに仕上がっていたように思う。ここ数年、シティボーイズミックスは少しその方向性が混迷としており、面白いといえば面白いのだが物足りないという感想を抱いてしまうような、そんなライブが続いていたのである。しかし、今作はそんな継続が力なりと言わんがばかりの状況を、見事に打ち砕いていた。

まず、「貿易船を襲う海賊集団の前に、マトリョーシカに扮した三人組の男が奇襲を仕掛ける」というオープニングコントが、たまらない。海賊はいい。奇襲を仕掛けるのもいい。で、どうしてマトリョーシカなのか。返り討ちにされる三人を尻目に、オープニング映像が始まる。映し出されるのは、ボンド映画『ゴールドフィンガー』を彷彿とさせるメロディに合わせて、黄金色に染まった出演者たちの異様なダンス。60を過ぎた人間がやることじゃない。既にこの時点でお腹いっぱいだが、ライブはまだ始まったばかりだ。その後も意味の無いコントが続く。ある日突然、共産主義になってしまった会社。田舎に引っ越してきたら、そこで行われている奇祭「じじい投げ」に巻き込まれてしまった高齢者。覚醒剤をやっていると疑われている総理大臣……。そこにあったのは、まさしく過激で無意味で後に何も残らない笑いだった。

既に還暦を迎えているにも関わらず、今でも先鋭的にナンセンスな笑いを生み出し続けているシティボーイズ。そんな彼らの姿は、現在活動中のコント師たちにとっての一つの可能性だ。ラーメンズが、バナナマンが、バカリズムが還暦を迎える時、シティボーイズの様な笑いを生み出せるのだろうか。ひょっとしたら無理かもしれない。しかし、可能性はゼロではない。その可能性を、今まさにシティボーイズは示唆しているのである。彼らが「コントよ、あれがシティボーイズの灯だ!」と叫ぶ日は、いつか訪れるのだろうか。

……いやー、しかしバカだったなあ……。


・本編(約110分)

ソマリアの海賊たち」「オープニング」「今日から我が社は共産主義共産主義の問題点~資本主義から来た男」「じじい投げ」「息子の友人たち」「性転換の女」「覚醒剤疑惑の総理大臣」「命の使い方ショー」※コントのタイトルは勝手につけたものです