菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

エレキコミック第18回発表会『R』

エレキコミック第18回発表会「R」 [DVD]エレキコミック第18回発表会「R」 [DVD]
(2010/03/17)
エレキコミック

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先日、なんとなしにケータイで「お笑いナタリー」を覗いていたら、エレキコミックの二人がインタビューを受けている記事を見つけたので、これまたなんとなしに目を通してみた。そしたらこれが、なかなか興味深い記事だった。その興味の深さときたら、思わず「うーん、なるほど、そうだったのか」なんて言葉が口からこぼれるほど。まあ、実際には何も言わずに読んでいたんだけれど。それでも、興味を持ったことは本当だ。そもそも興味を持っていなかったら、この記事の話から書き始めるわけがないじゃないか、という話。

今現在、エレキコミックはきちんとコントの台本を書いて、それから舞台に臨んでいるとのこと。……なんてことは、とてつもなく当たり前のことじゃないかという風に感じられるけれど、彼らにとってそれは当たり前じゃなかった。その記事によると、「爆笑オンエアバトル」に出場していた頃のエレキコミックは、殆ど台本無しの状態、シチュエーションだけを決めて舞台に立っていたのだという。確かに、当時の彼らのネタはシチュエーションコントが殆どだったけれど、まさかそれらが台本無しで行われていたとは。スゴいと思える反面、バカなんじゃないかという気もする。若手芸人の登竜門で台本無しのコントって、どんだけ挑戦的なんだっ!

そんな彼らが、どうして台本を準備したきちんとしたコントを作るようになっていったのか。ネタ書きを担当しているやついによると、片桐仁ラーメンズ)とのユニット“エレ片”を始めたときに「やっぱりなあなあではいかんなと思って、一字一句全部台本に書いたんですよ。そしたら、すごくうまくいくようになって。「あっ、こうやって進めるとうまくいくぞ」みたいなことを自分らで発見した」(記事より引用)ことがきっかけだったとのこと。徹底して完成されたコントを生み出し続けているラーメンズに属している片桐が、これまで自由奔放にコントを演じてきたエレキコミックに多大なる影響を与えたと考えると、なんとも面白い話ではないだろうか。そして、このところエレキコミックのコントに感じていた、ある種の違和感の様なものの正体が、このインタビューを通じてようやく理解できたような気がしたのである。

僕のエレキコミックに対するイメージは、基本的に「爆笑オンエアバトル」や「笑いの金メダル」などで培われたものだ。つまり、とにかくバカで意味のない笑いを生み出すコンビ、というイメージだ。しかし、ここ数年の単独発表会において、彼らが披露してきたコントは、なんとなく窮屈でキッチリと収まった印象残るものだったのである。つまり、その印象の変化の理由こそ、彼らがアドリブ重視の笑いから台本重視の笑いになったことにあるのではないか、と考えるわけだ。そりゃ、作り方が変われば、作品も変わるわなという話。2009年11月に六本木俳優座劇場で行われた単独発表会の様子を収録した今作「エレキコミック第18回発表会『R』」もまた、同じような印象の残る作品だった。やつい演じる怪しい男に契約を迫られる田舎者を描いた『Racketeer』、何の前触れもなく家に座敷童子がやってくる『Raider』、ブサイクな女の僻みがオソロシイ『Reason』など、なんとなーくキチッと収まったコントの数々。悪くはないんだけれど、かつてのアドリブ重視だった頃のコントに比べると、物足りなさを感じずにはいられなかった。

とはいえ、エレキコミックがアドリブ主義から台本主義に変わったということは、これからの彼らが表面的な笑いよりも作家的な笑いを生み出すようになろうとしているということで、これはこれで興味のあるところではある。現時点では、まだまだ爆発的な面白さは生み出せていないが、これから慣れていくにつれて、作家的に面白い笑いを生み出していけるようになるのではないか、という期待があるからだ。まあ、ひょっとしたら無理かもしれないけれど。今後、エレキコミックがどうなっていくのかはまだ分からないが、もうしばらく見守っていきたい。……偉そうだなっ。


・本編(78分)

「Racketeer(ぺてん師)」「Re:Opening」「Ready(準備)」「Raider(侵略者)」「Radio(ラジオ)」「Ragtag(ごみごみした)」「Reason(根拠)」「Returns(復帰する)」「Re:Ending」