菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『爆笑オンエアバトル パンクブーブー』で回顧する

爆笑オンエアバトル パンクブーブー [DVD]爆笑オンエアバトル パンクブーブー [DVD]
(2010/03/24)
パンクブーブー

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爆笑オンエアバトル」においてオーバー500を記録するということは、会場の審査に参加している100人の観客のうち90人の支持を受けているということを意味します。一見すると、それは簡単なことのように感じられますが、これがなかなかに難しい。というのも、このオーバー500は、ただ面白いネタをすれば出せる数字ではないからです。「爆笑オンエアバトル」で評価されるためには、そのネタのクオリティの高さに加えて、その日の観客の気質とネタが上手く合致しているかどうかという運の強さが必要となります。どんなに面白いネタを作っても、運が無ければ容赦なくオフエアとなってしまう番組、それが「爆笑オンエアバトル」なのです。しかし、そんな困難な状況に晒されながらも、オーバー500を記録する芸人が後を絶つことはありません。そのことは、より困難である“初出場でオーバー500”においても、変わりません。

第一回放送で512kbを記録したラーメンズ以降、様々な芸人たちが“初出場でオーバー500”という記録を残しています。それらの結果は、即ち彼らの芸が“知名度”などといった副産物的な要因を含まず、ただ純粋に評価されたということを意味していると言っても過言ではないでしょう。そして、それらの結果は、大きなデメリットとなって彼らの前に立ち塞がります。初出場でオーバー500を記録するということは、当然の如く“面白いネタが出来る芸人である”ことを意味します。つまり、他の芸人たちに比べて、そのハードルが非常に高くなってしまうということです。事実、初出場でオーバー500を記録した芸人たちの中には、その後良い結果が残せなくなってしまった者も、少なくありませんでした。

それでも、決して怯むことなく、番組に高記録を残した芸人たちも、決して少なくありませんでした。前述のラーメンズは、その後も独自の世界観によって切り開かれたコントを見せ続け、安定した評価を得ていました。501kbで初オンエアを果たしたマギー審司は、それから無傷の十連勝を記録、数少ない手品師の出場者として記憶に残る活躍をしました。この他にも、陣内智則、$10、ハイキングウォーキングNON STYLEなどといった芸人たちが、初出場オーバー500という記録に負けない結果を残しています。

2003年5月、夏の始まりを感じさせられるこの季節、「爆笑オンエアバトル」では長崎大会が行われていました。長崎で収録が行われたのはこれが史上初めてのことでしたが、九州で収録が行われるのは福岡・佐賀に続いて三回目となりました。その日の収録に参加していたのは、陣内智則ダイノジいつもここからはなわスピードワゴン、アメデオといった、当時の番組常連組ばかり。そんな彼らを押しのけるように、九州出身という立場から上手く地の利を活かした漫才を披露し、初出場でオーバー500を記録したコンビが、パンクブーブーでした。その数値、なんと537kb。1999年に陣内智則が初出場で記録した当時の番組最高数値に並ぶ数字を、彼らはいとも簡単に叩き出してしまったのです。

鮮烈にオンバトデビューを果たしたパンクブーブーは、その年、史上初となる「年間四勝全てオーバー500」を記録します。当然、彼らに対する期待のハードルは、どんどん高くなっていく……筈でしたが、不思議と当時はそういう雰囲気を感じることがありませんでした。おそらくその原因は、彼らが時々見せる悪ふざけの様な姿にあったのではないか、と思われます。「爆笑オンエアバトル」に出場し始めた頃のパンクブーブーは、あからさまにふざけているように見られても仕方がない様なネタを、幾つか披露していました。例えば、2004年6月にオンエアされたカップルのコント、同年11月にオンエアされた途中でネタを断絶してしまう漫才などなど……その中でも強烈な印象を残したネタを紹介します。

そのネタは、第7回チャンピオン大会ファイナルで披露されました。当時、パンクブーブーはセミファイナルを1010kbで一位通過。同じくセミファイナルでオーバー1000を記録していたタカアンドトシと並んだ、チャンピオン候補でした。そんな時に、彼らが披露したネタは『車掌』。佐藤さんが黒瀬さんに車掌の技術を伝授するというネタだったのですが、その内容はとにかく自由奔放。佐藤さんが徹底的に暴走するスタイルに、多くの観客はついていくことが出来ませんでした。その結果、彼らが獲得した数値は362kb。聞いた話によると、二人はこのネタの後でマネージャーに大目玉を食らったとのこと。……まあ、仕方がない様な気もします。

これらの経緯からも分かるように、彼らは「爆笑オンエアバトル」において正統派の漫才師というよりもかなり捻くれたスタイルの漫才師としてのイメージが強かったのです。それ故に、番組でのハードルが他の漫才師に比べて上がることはなく、純粋にネタを受け入れられていたのではないかと思われます。もちろん、彼ら自身が非常に卓越された漫才師だったということは、大前提ですが。2003年6月から2010年2月まで、番組に出場し続けてきたパンクブーブー。その番組出場総数は21回。うちオンエア回数は19回。更にオーバー500を記録した回数は、うち11回。何処に出しても恥ずかしくない、圧倒的な数字です。

彼らは現在、M-1グランプリ2009の覇者として、様々な番組に出演しています。しかし、それはあくまでも一過性のことに過ぎません。今後、彼らは漫才師としてではなく、タレントとしての能力が問われるようになることでしょう。先の見えないお笑い界で、この上無く高いハードルを突き付けられているパンクブーブー。とはいえ、そのハードルは決して越えられないものではありません。かつて、初出場でオーバー500というハードルを飛び越えた彼ら。いつの日か、『車掌』ばりに強烈な印象を残すことの出来るタレントに進化を遂げることでしょう。……まあ、分かりませんけどね。とりあえず、気長に待ってみましょう。


・本編(111分)

過去に「爆笑オンエアバトル」通常回で披露した18本+チャンピオン大会で披露した6本を合わせた全24本のネタを収録

(※2004年2月放送『ドラえもん』と2010年2月放送『クレーム』は未収録)

・特典映像(17分)

爆笑オンエアバトル座談会とキーワードトークを収録