菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

ラーメンズ第17回公演『TOWER』

ラーメンズ第17回公演『TOWER』 [DVD]ラーメンズ第17回公演『TOWER』 [DVD]
(2010/09/15)
ラーメンズ

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ラーメンズといえば難解で分かりにくいネタを披露するアーティスト型のコント師としてのイメージが強いが、ここ数年は分かりやすい芝居型のコントを多く手掛けていた。度重なる言葉遊びに、無意味さを追求するナンセンス。時に演劇の様に踊り、時に芸術の様に魅せる。それが、ここ数年のラーメンズのスタイルだった。そして、このスタイルは第16回公演『TEXT』をもって、一つの完成を迎える。タイトル通り、言葉の曖昧なおかしさを追求した『TEXT』は、彼ら(もとい小林賢太郎)がこれまでにコントで培ってきた技術の殆どを費やした、まさに完璧な公演だった。

一つの頂点に辿り着いたラーメンズがまず最初にやらなくてはならなかったのは、新たなるスタイルへの第一歩だった。これまでの歩みを無駄にすることなく、しかしこれまでとはまったく違った笑い。それこそ、これからの彼らが模索すべき道であり、歩まなくてはならない試練の道だったのである。『TEXT』から三年後の2009年に行われた第17回公演『TOWER』は、そんな状況を打破するための一つの回答が求められたライブだったといえるだろう。

『TOWER』でラーメンズが最も表現していること。それは、何のてらいもない自己表現としての笑い、である。近年のラーメンズは、とにかく客の視点を意識したコントを作り出していた。如何にして客に笑ってもらうか、客に満足してもらうか、客を驚かせるか。観客のリアクションを意識した手法と、そこに僅かながらに含ませる独自のエッセンス。これが、ここ数年のラーメンズだった。ところが、今回の公演では、その手法をほぼ完全に排除。観客がどう感じるかということよりも、自分たちが何を演じたいかを考えた結果が表されていたように思う。

その傾向が最も顕著に表れたコントが『五重塔』だ。片桐演じる五重塔の中に、小林演じる世界中の高い建物を上り詰めてきたというカメヒコが侵入するというコントなのだが、立体駐車場に改築しようとしたり、部屋中に切手を貼って広さを確認したり、その切手を剥がすために五重塔が全身から油を出したり……まったくもって意味がない。ひょっとしたら、面白くない。下手すれば、これまでにラーメンズが築いてきたキャリアを全て崩壊しかねない……それほどに衝撃的なコントだった。

これ以外にも、基本的にはただただあやとりをし続けるだけの『シャンパンタワーとあやとりとロールケーキ』、“語感”についての会話を展開していた筈がだんだんとSF的世界観の妄想へと飲み込まれている『名は体を表す』、説明不要の『ハイウェスト』など、ただただバカバカしさがフルスロットル回転するだけのコントが目白押し。そこには何の意味もない。だからこそ、妙に清々しい。やりきった感がある。たぶん、演じている当人は、結構楽しかったんじゃないかなあ。

今まで隠してきたすっぴんのラーメンズが、ここにある。そして、これからの彼らはこの側面を惜しむことなく見せつけていくことだろう……いや、流石にこればっかりだとキツいけど。


・本編(111分)

タワーズ1」「シャンパンタワーとあやとりとロールケーキ」「名は体を表す」「ハイウエスト」「やめさせないと」「五重塔」「タワーズ2」