菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『U-1グランプリ CASE03 職員室』

U-1グランプリ CASE03『職員室』U-1グランプリ CASE03『職員室』
(2010/09/15)
マギー六角慎司

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テレビからコントが消えている。寂しいことだ。まったく見られないわけではない。「爆笑オンエアバトル」などのようなネタ番組では、相変わらず若手から中堅あたりの芸人がコントを披露している。が、これはテレビのコントではない。舞台のコントをテレビで披露しているだけに過ぎない。

私見で申し訳ないが、“テレビのコント”というのはリビングあたりでゴロリと寝転びながら、ニヤニヤしながら見られるような代物じゃなくちゃいけない。若手芸人のコントだって、そりゃ面白い。面白いんだけど、それは安心して見られない。なにせ彼らは売れるために必死なものだから、気合が違う。それはそれでいい。でも、僕が理想とするテレビのコントは、そうじゃない。うっかり見逃してしまっても、一瞬「しまった」って思いながら、でも来週こそは見ようと思えるような気楽で面白いコント。それが僕にとってのテレビのコントなのだ。

そういう意味では、シチュエーションコントを専門に取り扱う奇特なユニット、U-1グランプリの舞台は非常にテレビ的だといえる。ユニットの主催であり作家でもあるマギーと福田雄一は、「ココリコミラクルタイプ」「サラリーマンNeo」など長い人気を誇ったコント番組に参加してきた生粋のコントクリエイターだし、出演している演者もテレビや舞台を中心に活動する実力派ばかり。安心の台本に安心の役者が揃い、尚且つ安心の舞台美術まであるとくるのだから、これはもはやテレビのコントと同義であると言っても過言ではないだろう。過言だけど。

今作には、そんなU-1グランプリによる三度目の舞台公演『U-1グランプリ CASE03 職員室』の模様が収録されている。まだ世間を理解していない学生、学校という閉鎖された空間で生きていく教師、日頃は学校とはまったく違った空間で生活している保護者、その他大勢の登場人物たちが渦巻く「職員室」は、シチュエーションコントの舞台としては非常に上質だ。そして実際、かなり良かった。過去二回の舞台も安定して良かったのだが、今回は特に全編通して良かった。面白かった。下らなかった。下らなくって、涙が出た。出ちゃうね、涙。そりゃ出ますよ。だってさ、こんな面白いテレビのコントがさ、テレビで流せない時代なんだよ、今。つまらないとは言わないし、好きなのも少なくないんだけど、銭のかからないようなトーク番組ばっか増やしちゃってさ、バランスが悪いったらないよ。コントが無い時代なんて、テレビ史上初めてのことなんじゃないのか。知らないけど。ついでに言うと、涙も流してないけれど。

それにしても下らない。猿みたいな言動を取る女子高生の母親が職員室に飛び込んでくる『どてちん』とか、「もういいよ」っていう生徒への助言が間違いだったんじゃないかと被害妄想を巡らせる『もういいよ』とか、某おっぱいバレーのパロディ以外の何物でもない『青少年の主張』とか。あと『学校でウンコ』ね。これなんかもう、ただ単にバカ。でも、そういうバカが好き。たまらないね。いや、一番好きなのは『新・坊っちゃん』みたいなネタなんだけど。ああいうの、大好き。伏線が活かされてて、ね。ロジックに弱いんだよなあ……。

テレビで“テレビのコント”が見られない、今という時代。ただ見られないだけならまだしも、その影響でコントを作ることが出来る作家が減っているのだという。U-1グランプリというユニットは、そんなコント作家が生まれ辛い時代に差す、一筋の光明といえるのかもしれない。果たして、テレビのコントの夜明けはいつの日か……来るのかな?


・本編(93分)

「楽園」「opening」「どてちん」「もういいよ」「鬼叱先生」「青少年の主張」「おやじ」「学校でウンコ」「新・坊っちゃん」「不合格」「オギワラさん」「ending」

・出演

マギー、六角慎司ムロツヨシ野波麻帆植木夏十、山西惇、福田雄一

・特典

福田雄一とマギーと六角慎司による副音声コメンタリー