菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

インパルス単独ライブ『村雨~むらさめ~』

インパルス単独ライブ「村雨~むらさめ~」[DVD]インパルス単独ライブ「村雨~むらさめ~」[DVD]
(2010/09/22)
インパルス

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先に断っておくが、僕は決してアンチ・インパルスなわけではない。インパルスのコントは、彼らが「爆笑オンエアバトル」で初めてオンエアを獲得した時から鑑賞し続けているが、それから一度も嫌いになったことはない。むしろ、好きだ。「キングオブコント2009」決勝で総合四位だったことに、ちょっと納得していないくらいには、好きだ。もうちょっと一本目のネタの点数が高くても良かったんじゃないかな、とか未だに思っている(八組中六位だった)。要するに、ファンというほどではないけれど、割とその芸風を支持している、というポジションだと思ってくれればいい。そのことを踏まえて書くが、今回のインパルス単独ライブ『村雨~むらさめ~』……実に良くなかった

まあ、そもそも期待し過ぎていた、ということはあるのかもしれない。コンビとしては四年ぶりとなる単独ライブ、しかも全てオリジナルコントという情報に、少なからず興奮していたことも確かだ。だが、それは無理というもの。何故ならば、このライブが行われたのは、彼らが「キングオブコント2009」決勝の舞台で四位という微妙な結果に終わってしまった、そのおよそ半年後の2010年5月だからだ。来る「キングオブコント2010」に向けて、さぞ気合の入った新作コントが観られるものだと期待しない方がおかしいというものではないだろうか。……などと書くと、「まあ、素晴らしいとまではいかなくても、インパルスほどの実力者なのだから、決して酷いコントを見せるようなことはないだろう」と考える人もいるだろう。僕もそう思っていた。そして、確かに酷くはなかった。酷くは。

とりあえず、僕が今作を鑑賞した時の状況を、文章で再現してみよう。まず、今作を手にして、DVDプレーヤーに挿入する。テレビからそこそこ離れた定位置に座り、メニュー画面が表示されるのを待つ。しばらくすると、雨に打たれているインパルスの二人の姿が背景にあるメニュー画面になるので、「本編再生」を選択する。すると、テレビには、何の前フリもなく、オープニングコントが映し出される。

コントのタイトルは『コンビニ強盗』。板倉が務めるコンビニに、堤下扮するストッキングを被った強盗が押し入ってくるという、定番のシチュエーションコントだ。キングオブコント2009」決勝のステージで優勝者の東京03が演じていたコントと同じシチュエーションであることに、こちらは興奮を隠せない。板倉は堤下に素直にお金を渡すが、堤下が帰ろうとするたびに板倉はストッキングをグイッと引っ張って呼び止める。インパルスのコントでは定番の、板倉が堤下をおちょくるタイプのネタだ。

しかし、これはあくまでもオープニングコント。決して長々と演じられるものではない。そこで、テキトーなところでオチが来るに違いないと思い、だらだらとやりとりを眺めていたのだが……いっこうに終わる気配がない。二人のやりとりは延々と続き、気付けば、このコントが終わるまでに10分が経過していた。今作の本編時間が約100分であることを考慮すると、オープニングコントに全体の十分の一の時間が費やされたことになる。これは流石に長いしダレる! しかもやっていることは、ずっと強盗のストッキングいじり! これでは、本編が始まる前に集中力が切れてしまう! というか、実際に切れてしまった。

そしてまた、こういうタイプのコントがひたすら続く。雨の中、聞き込みをしている刑事が、とある老人にビショビショにされてしまう『雨宿り』。とある科学者にあるお願いにやってきた女性のやりとりを描いた『科学者の誇り』。放送室に立てこもった二人の学生が、学校に対する文句を喧伝しようとするのだが……『大人たちへ』。いずれも確かにインパルスならではの味わいがあるコントなのだが、とにかく長くてグダグダしている。ただ長いだけならいい。むしろ、単独ライブで披露されるようなコントは、テレビや他所のライブのように時間が制限されることもないので、長くなって然るべきだろう。でも、展開がグダグダしてはいけない。当然のことだが。

唯一、自身が務めるレストランに有名な女性タレントがやってきたことで舞い上がったコックが、急にデキる男をアピールし始める『ランチタイム』、これは本当に面白かった。デキる男に見られたいコックの態度が次から次へと変化を遂げていく展開が、とにかく素晴らしい。まあ、他が良くないから、これがやたらと良く見えているだけなのかもしれないが。……いや! 面白かった。このネタに関しては、本当に面白かった。オーソドックスなインパルスのコントというような印象を与えられた。……このレベルのコントが作れるのに、どうして他のコントはああもグダグダだったのかなあ。

ただ、それでも最後のコントが良ければ、まだ納得できたと思う。「終わり良ければ全て良し」という言葉もあるわけだし。ところが……うん。逃走する殺人犯がテーマになったブラック要素の強く、いかにもインパルスらしい設定でありながら、途中から完全にグダグダになってしまうし、全体のコントを総括するという構成も雑だし(というか、この構成を成立するために全体がガタガタになっちゃっている)、壁にペンキを塗ったり貼りつけたりする展開もまったく効果的じゃない。はっきり言って、下手に構成を凝ったものにせずに、普通にネタだけやってる単独ライブにしたほうが、よっぽど不満の残らない内容になっていたのではないかと。

キングオブコント2009」決勝に進出したことからも分かるように、インパルスが現在の日本において有数のコント師であることは間違いない。だからこそ、今作の出来は非常に残念だった。先に書いた様に、期待し過ぎていたというのもあるんだけれど、それにしてもちょっと……うーん。


・本編(100分)

「コンビニ強盗」「雨宿り」「科学者の誇り」「ランチタイム」「妖刀村雨」「大人たちへ」「SEVEN」

・特典映像(37分)

「謎の生き物を追え!!「ドキュメント!ニッポンの闇~森からの使者~」完全版」「インパルスによる「場内アナウンス」舞台裏」「ツツミシタ楽屋に出没!」「ツツミシタの生態」