菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

第十回東京03単独公演『自分、自分、自分。』

第10回東京03単独ライブ「自分、自分、自分。」第10回東京03単独ライブ「自分、自分、自分。」
(2010/09/22)
東京03

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キングオブコント2009」覇者として知られているお笑いトリオ、東京03。彼らのことを深く知らない人は、きっと彼らをテレビでは結果の残せないダメ芸人だと認識していのだろう。そして、それは確かに彼らの一面ではある。但し、彼らのコントは、テレビでの活躍ぶりを差し引いてもお釣りが出るコント師としての東京03は、日本人の鏡である。鑑ではない。鏡だ。日本人という民族の性質を切り取り、それを笑えるコントへと昇華させてしまう、ある種の鏡である。無論、日本人を皮肉ったジョークというのは世界中に散在しているのだろうが、彼らの客は日本人である。そこが、彼らの恐ろしい所だ。

そんな彼らのコント観は、最新DVD『東京03第十回単独公演「自分、自分、自分。」』においても健在だ。相変わらず、日本人の持つ機微で矮小で卑怯な性質を見事に笑いへと昇華している。ただ、今作でのそれらの切り取り方は、以前よりもずっとえぐいものになっていたように感じた。

これまで東京03は、弱者の視点によるコントを主に演じてきた。営業先で媚びたことを叱られてしまって逆ギレ、身体の悪いところを知りたいけど知りたくなくて駄々をこねる、友達に泥棒に入られているけれどその事実を認めたくない……そんな日本人特有の「弱者のやりきれなさ」こそが、彼らの最大の武器だった。しかし今回のライブにおいて、東京03「弱者を装った存在」に切り込んだ。会社での失敗を落ち込んでいるフリをして同僚に奢らせるサラリーマンや、自分の失敗を謝罪せずに誤魔化して反省したフリを決め込む友人などを、笑える存在として徹底的にコント化したのである。これらのコントで「弱者を装った存在」は、純粋に悪として描かれている。

だが、考えてもみてもらいたい。これら「弱者を装った存在」としての一面を、僕らも少なからず持っているのではないか。本当に落ち込んでいる時に優しい言葉をかけられて打算的になることや、自分に都合の悪いところを上手く誤魔化してしまおうと計略的になることを、誰もが経験しているのではないか。その意味では、今作において東京03は、より日本人の生々しい部分を切り取るようになったと言えるのかもしれない(ちなみに副音声によると、前者のコントは飯塚の実体験、後者のコントは豊本自身をモデルに作られたそうだ)。

ただ、個人的に最も印象に残っているネタは、それらの傾向にあるコントではない。そのコントとは、今作のオープニングで披露された『クレーム』だ。ファミレスのオーダーが通っていないことに腹を立てた飯塚が、店員の角田にクレームを入れていると、そこに店長の豊本がやってきて、角田をクビにしてしまうコントなのだが、その後の展開があまりにも不条理というかシュールな雰囲気を漂わせており、ちょっと東京03らしくない印象を与えられたのである。どちらかというと、初期のアルファルファを感じさせられるコントだった。そういえば今作では、豊本がかつてのウザキャラをイメージさせるコントが何本か披露されている。東京03としてのコントが確立された今、かつての方法を試みる余裕が出てきたのかもしれない。

このライブを観に行った人力舎の芸人たちは口々に賛辞を述べていたと聞くが、確かにそれだけのことはあったように思う。『スモール』以降の公演としては最高の出来だった、といえるだろう。だが、まだだ。今回、更に深い日本人の本質をえぐりとった東京03は、次の公演で更に凄いものを見せてくれるような、そんな気がしてならない。これは単なる的外れな妄想なのか、それとも……。次の公演『正論、異論、口論。』に期待したい。次こそきっと、彼らのベストとなるに違いない。


・本編(114分)

「キャスト紹介「ピアノ曲『自分、自分、自分。』」」「クレーム」「主題歌「見てたじゃん」」「落ち込む同僚」「落ち込んだフリ専門学校」「自虐」「自虐VTR」「遭難」「THEギャクター01のテーマ」「恩師」「まったく覚えてない高校校歌」「誕生日」「物販(THEギャクター01のグッズ宣伝のテーマ)」「カクピーの結婚」「エンディング「石のようには転がれない」」

・特典映像(25分)

「自虐(another ver.)」「遭難(another ver.)」