菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『天竺鼠4』

天竺鼠4 [DVD]天竺鼠4 [DVD]
(2010/10/27)
天竺鼠

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天竺鼠というコンビがいる。主にコントを演じているが、漫才をすることもある。そのネタには定評があり、キングオブコントでは二度も決勝戦に進出している。M-1グランプリにおいても、五度の準決勝進出を果たしている。大阪在住の若手コンビの中でも、かなりの実力者だといえるだろう。そんな彼らの芸風は、決してオーソドックスとはいえない。それを言葉で表現するとすれば、「不条理」だろう。彼らのコントは常に、不条理な空気に満ちている。その表現は時に暴力的で、反社会的にすら感じられることもある。しかし、それらの過激な表現は、全て不条理として処理されていく。

例えば、『授業参観』というコントがある。授業参観の日、川原演じる教師の行動に、瀬下演じる小学生の生徒らが振り回される様子を描いている。ここで川原が取る行動は、とてつもなく不条理だ。小学生たちの挨拶を「長い、長い、長い……」とひたすら愚痴る。後ろの母親が気になる生徒を立たせ、「一日中立っていろ!」と言っておきながら、説教の直後に座らせる。何も食べていない生徒の口の中に指を入れて、「笑えよ~」とボヤく。全ての行動が、一貫して不条理。

ところが終盤、思わぬ変化が起きる。あまりにも不条理な教師の行動に対し、生徒が泣き出してしまうのだ。すると、教師は慌てふためきながら、生徒をなだめようとしたり、保護者に言い訳をしたりする。それまで不条理を体現したようなキャラクターだった教師が、急に従来の教師らしい行動に出るのである。まあ、この行動も、この後の不条理への布石となっているのだが。それでも、この流れは些か興味深い。

天竺鼠の様に、不条理な笑いを得意とするコント師は、これまでにも数多く存在していた。古くはシティボーイズよゐこチョップリンなどなど。彼らはそのコントで、決して緩むことのない徹底して不条理な世界観を構築してきた。その不条理な世界観が少しでも崩れてしまうことを恐れたためである。しかし、天竺鼠はあえて、そこに緩みを含ませた。そうして、不条理なキャラクターを単なるキャラクターではなく、より不気味で得体の知れない存在へと変貌させたのである。

天竺鼠4』は、そんな天竺鼠の不条理な発想に満ち溢れた映像作品だ。単独ライブで演じられたコントから、DVD用にロケーション撮影されたコント映像まで、非常にバリエーションに富んだ内容に仕上がっている。オープニングからエンディングまでひたすら不条理で面白いのだが、どうも彼らのコントは映像化されるよりも舞台上のライブとして収録されているネタの方が笑える。ロケーション映像として見ると、彼らの不条理さよりも過激な表現に意識が傾くからなのかもしれない。そういえば、この作品は当初、彼らの単独ライブを収めたDVDになる予定だったらしい。その予定のまま、作品化されていれば……。

キングオブコント2010では、惜しくも準決勝落ちとなってしまった彼ら。確かに、今作で披露されている不条理は、前作『天竺鼠2』で披露されている不条理から、それほど成長を見せていない様に思えた。しかし、ここで留まる彼らではないだろう。こちらが予想もしないような、また新たなる不条理な世界観に満ちたコントを生み出し、決勝の舞台へと帰ってくるに違いない。その時は是非、純粋な「単独ライブ」のDVD化をお願いしたいところ……。


・本編(120分)

「親子」「ブリッジVTR」「こだわり喫茶店」「ナスビくん1」「授業参観」「ブリッジVTR」「瀬下の根性はどんだけスゴいのかを検証するでごわす」「ラジオ体操 第二」「楽器屋」「ブリッジVTR」「公園」「ナスビくん2」「カラオケ」「ブリッジVTR」「ヒーロー戦隊VS悪の組織の最後のボス」「ブリッジVTR」「夫婦」「輝飛くんを笑かそう!」「アスリート対抗 早押しドン!!」

・特典映像(25分)

「かっこいい漫才」「ズッキーニくん」「川原50音」「川原映画」「川原NG集」