菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『林家たい平の「ドラ落語」』

林家たい平の『ドラ落語』 [DVD]林家たい平の『ドラ落語』 [DVD]
(2010/12/01)
林家たい平

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笑点』でお馴染みのチャンラーン落語家、林家たい平が『ドラえもん』のエピソードを落語で演じてみせるという。どういう理由でたい平師匠が演じることになったのかは分からないが、『ドラえもん』を落語化するという試みは興味深い。何故ならば、『ドラえもん』の作者である藤子・F・不二雄は大変な落語好きで、自身の作品にも落語的エッセンスを散りばめていたからだ。例えば、藤子作品の舞台の多くがごく当たり前の日常である点、キャラクターたちがそれぞれに個性的で自身の役割に忠実である点、そしてどの作品にもきちんと納得のいく落ちが提示されている点など、非常に落語的である。

そんな藤子作品の代表作と言ってもいい『ドラえもん』を落語にするとなると、興味を持つなという方が無理というもの。とはいえ、下手に期待し過ぎると、逆に失望してしまう可能性も否めない。というわけで、今回はちょっとハードルを下げて、「『ドラえもん』の世界観と落語の空気感が融合しているかどうか」という基準で鑑賞することにした。

結論から言うと、今作はその基準に達していなかった。個人的には、それなりにハードルを下げて鑑賞したつもりだったのだが、まさかそれを下回ることになろうとは。いや、事前に『いたわりロボット』『ライター芝居』『この絵600万円』という三つのエピソードを落語化すると聞いていたにも関わらず、収録時間がたった約72分だということが発覚した時点で、多少の不安は感じていたのだが。……というのも、通常の落語は一本のネタに20分以上はかけるものだからだ。それを、一本およそ10分程度で演じてみせろというのは、とてつもなく無茶な話なのである。結果、今作には、落語家が高座に上がって、原作の内容をすらすらと説明しているだけの様な、とても“落語”とは呼べない代物が収録されることに。

また、今回の落語を披露したお江戸日本橋亭には、観客として子どもがたくさん詰め掛けていたようで、たい平師匠が終始子ども向けにハキハキとした口調で噺を演じていたことも、マイナスに繋がってしまった様に思う(ドラえもんの口調を真似るところなど、かなり薄ら寒い)。とはいえ、子どもを相手に通常の落語口調で演じるのは、きっと難しい。そして恐らく、今作はそんな子どもに向けて作られたものだ。そう考えると、僕がこうやって文句をつけていること自体、的外れな気がしないでもない。だが、ドラえもん』と“落語”という類似性のある両者を融合させているにも関わらず、“落語”の良さをおざなりにしてしまうなんて、それでは正直言って企画倒れだ。それを落語で演じる以上、落語ならではの味もきちんと引き立てられるべきじゃないだろうか。

そもそも、どうしてこの企画を、たい平師匠に依頼したのだろう。たい平師は決して悪い落語家ではないが、彼が得意とするのはあくまでも古典落語であって、『ドラえもん』の様に現代が舞台となった創作落語ではない。それならば、たい平師と並んで『笑点』にレギュラー出演している春風亭昇太師匠の方が、ずっと適役だったのではないか。ビジュアルものび太に似ているし。……まあ、依頼をしてみたものの、断られてしまったという可能性は否めないし、もし承諾したとしても、元来の『ドラえもん』のイメージから大幅に掛け離れた噺に改造されてしまった可能性もあるが。どうも、見た目が朗らかで親しみやすいお兄さんだから、などという安直な理由で選ばれたのではないかという疑心暗鬼が止まらない。

特典としてついてくる「特性手ぬぐい」と「原作コミックス」は嬉しかったが、肝心の本編がこれではちょっと物足りない。『ドラえもん』と“落語”を融合するという企画自体は面白かっただけに、非常に残念。このまま終わらせてしまうのは勿体無いので、是非とも、一度仕切り直した上で、また改めて新しい『ドラ落語』の企画を立ち上げてもらいたいところ。とりあえず、収録時間は120分くらい取ろう。


・本編(約46分)

「いたわりロボット」「ライター芝居」「この絵600万円」

・特典映像(約24分)

「落語の“ら”」「ドラ落語の舞台裏」