菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『ギンギラ銀にシャリげなく』

ギンギラ銀にシャリげなく [DVD]ギンギラ銀にシャリげなく [DVD]
(2010/12/28)
銀シャリ

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M-1グランプリの時期が近付くと、お笑いフリークの間では「どのコンビが決勝戦に進出するのか」という話で持ち切りになる。自分が贔屓にしているコンビを推薦する人、予選を見てきた印象を語る人、ただコンビ名だけを見て勘で予想を立てる人、実に様々だ。その中で、ほぼ必ず名前が挙がるにも関わらず、これまで決勝戦に進出することのなかったコンビがいる。関西を中心に活動している漫才師、銀シャリだ。昭和の漫才師を彷彿とさせる真っ青なスーツに身を包んだ彼らは、長年に渡りM-1での活躍を期待され続けてきた。その期待は2010年、遂に叶うことになる。

2010年12月12日、「M-1グランプリ2010」決勝進出メンバーが発表された。笑い飯、ナイツ、ハライチなどの決勝進出経験者に、ピース、ジャルジャルスリムクラブカナリアなどの初の決勝進出者の名前が並ぶ。その中に、銀シャリの名前もあった。お笑いフリークの間ではそれなりに知られた存在だった銀シャリだが、全国区においてはまだまだ知名度の低い若手漫才師の一組。M-1グランプリ決勝の舞台は、そんな彼らの名前を世に知らしめる大切な機会だった。ところが、ここで思わぬ番狂わせ。彼らの前にネタを披露したスリムクラブが想定外のビッグウェーブを巻き起こし、会場を爆笑の渦に巻き込んだのである。その結果、銀シャリの漫才は消化試合的に受け流されてしまい、最終的に総合五位という非常にフワッとした順位に落ち着いてしまった。

M-1決勝の場で銀シャリが披露したネタは『アルファベット』。鰻が「きらきら星」のメロディに乗せた「ドレミの歌」を歌い、その歌詞の間違いに橋本が一つ一つツッコミを入れていくという、非常にオーソドックスな組み立てのネタだ。しかし、そのオーソドックスさに対し、ネタの内容はなかなか捻くれている。鰻の発想、橋本のツッコミ、その両方が程良く映えるネタだったのだが……スリムクラブの大爆笑の後だったこともあって、観客にはごく当たり前にオーソドックスな漫才だと認識されてしまった様な気がする。

今作『ギンギラ銀にシャリげなく』は、そんな銀シャリの魅力を凝縮した作品だ。得意の漫才やコントは勿論のこと、鰻の天然エピソードの紹介VTRや鰻作による6コマ漫画などが収録されている。全体的に鰻に関する話題が中心となった偏りある内容ではあるが、彼の天然エピソードを聞いた後では、それも仕方が無いことだと頷ける。ちなみに、鰻の天然エピソードは相方の橋本によって紹介されているのだが、時たま“上手いこと”を言おうとする彼の姿はなかなかに鬱陶しい(いい意味で)。是非、彼のイキリぶりを確認してもらいたい。

話を戻す。今作において銀シャリは主に漫才を披露。M-1決勝でも披露した『アルファベット』を始めとして、鰻の元カノが人魚だったという話を膨らませていく『人魚』、歌詞の間違いをきちんと訂正していく『森のくまさん』、間違えて覚えていることわざを一つ一つ訂正していく『ことわざ』などのネタが収録されている。いずれも、テーマ自体は非常にオーソドックスなのだが、鰻の飛び抜けた発想と橋本の古典的な中に新しさを含んだツッコミによる、銀シャリならではの漫才ばかり。

その中でも印象的だった漫才が、『万引きGメン』というネタ。

鰻「俺は万引きGメンするから、お前万引きしてや」

橋本「……いや、万引きはしたらあかんやろ。犯罪やろ、知ってるか?」

万引きGメンをやりたいから、そういうコントを始めようとする鰻。ところが、橋本はその鰻の発案を本気で捉えて、まったく漫才を始めようとしない。近年、漫才はしゃべくりのみで成立するものではなく、漫才という体で始まりながらもコントとして展開することも珍しくなくなっている。そんな時代の流れに逆らう意味があるのかどうかは分からないが、この漫才は間違いなくそんな時代の状況を逆手に取ったネタだ。

鰻「他のコンビ見たことない!? 「俺、万引きGメンするんや」言うたら、「俺、万引きするわ」っていうやりとり、聞いたことない!?」

橋本「……いや、他は他、ウチはウチやろがい」

鰻「いや、オカンみたいなこと言うてるやん」

橋本「なんなん?何を言うてるのそれは?」

鰻「他、みんなやってるで!」

橋本「……他のコンビ、みんなツッコミ万引きしてるんですか?」

普段の銀シャリが演じている漫才とはまったく違ったスタイルのネタだが、もしもこのネタをM-1決勝の舞台で披露していたとしたらどうなっていただろうか。「M-1グランプリ2010」では、これまでの漫才を解体する様なスタイルのネタが多く演じられていた。ボケとツッコミの概念を壊したカナリア、スピード化する漫才を皮肉ったジャルジャル、“手数論”が提唱される最中にボケの数を削ったネタで勝負に出たスリムクラブ。この流れでもし、銀シャリがこのネタを披露していたとしたら……想像すると、ちょっと面白い。

コンビ結成六年目、漫才師としてはまだまだ成長段階にある筈なのに、既にそこそこ完成されている感がある彼ら。抜群の安定感を保っているが故に、今後どのように発展していくのかが気になって仕方ない。ここに留まることなく、更なる進化に期待を寄せてはいるのだが……果たして。


・本編(55分)

「漫才「アルファベット」」「漫才「人魚」」「橋本厳選! 鰻和弘の50音天然エピソード「あ・か行」」「漫才「森のくまさん」」「コント「病院」」「橋本厳選! 鰻和弘の50音天然エピソード「さ・た行」」「漫才「ことわざ」」「漫才「万引きGメン」」「橋本厳選! 鰻和弘の50音天然エピソード「な・は行」」「コント「美容室」」「漫才「桃太郎」」「橋本厳選! 鰻和弘の50音天然エピソード「ま・や行」」「漫才「ご飯」」「橋本厳選! 鰻和弘の50音天然エピソード「ら・わ行」」

・特典映像(24分)

「200@年秘蔵映像「鰻の一日」」「鰻作・6コマ漫画劇場」「鰻の「スナックムービー」」