菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『浅草三銃士』

ロケット団、ナイツ、Wコロンライブ「浅草三銃士」 [DVD]ロケット団、ナイツ、Wコロンライブ「浅草三銃士」 [DVD]
(2011/01/26)
ロケット団、ナイツ 他

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「ヤホー漫才」の使い手として登場し、M-1グランプリ決勝に三度の進出を果たし、バラエティ番組では浅草の演芸場出身であることを武器にしたトークで沸かせる……と、もはや敵無しといった空気も漂わせているコンビ、ナイツ。最近、テレビで「浅草演芸場出身というイメージを払拭させたい!」などと口にする姿を目にしたが、昨年には漫談家中津川弦と漫才師の宮田陽・昇、更には落語家の三遊亭小遊三をゲストに招き、国立演芸場で行ったライブ『ナイツ独演会』をDVD化していた。演芸場の匂いしかしなかったぞ、これ。そんなナイツが、今度は『浅草三銃士』というDVDをリリースした。完全に浅草に骨を埋めるつもりだろ。

ところで、この『浅草三銃士』だが、実はこれはナイツ単独の作品ではない。ナイツ以外に二組の漫才師が合わさったユニットの名前が“浅草三銃士”で、今作はそのユニットによる初めてのDVD作品なのである。その二組とは、なぞかけですっかりお馴染みとなった“Wコロン”と、時事ネタ漫才を得意とするが方言ネタの方が知られているロケット団。同じ漫才協会に所属する三組で、力を合わせて浅草の演芸を盛り上げていこう、ということなのだろう。そういう意味では、浅草演芸場の空気を再現していた『ナイツ独演会』とやっていることは近いのかもしれない。ただ、明確に違うところもある。先輩芸人をゲストに招いている『ナイツ独演会』でのナイツには、少なからず緊張の色が見える。しかし、同じ立場にある芸人たちと一緒に舞台に立つ『浅草三銃士』でのナイツは、とてもリラックスしている。これほど安心した面持ちで舞台に立つ二人は、テレビでも見たことがない。

今作の本編では、『ナイツ独演会』にも登場した中津川弦の前説の後、三組による漫才が二本ずつ披露されている。M-1で結果を残したのはナイツだけだが、それなりに芸歴を重ねている面々なだけあって、どの漫才も安心して楽しめる(Wコロンのネタは一部漫才とは言えなかったかもしれない)。……いや、一部ネタの内容はちょっと過激なので“安心して”というのは、あまり正しくないのかもしれないが……

とはいえ、やはり頭一つ抜けて面白いのは、ナイツの漫才だ。自己紹介ネタに野球ネタと、テーマは『ナイツ独演会』で披露していた漫才に似ているが、内容はちょっとブラック要素を強くしていた様に思う。意図的な演出かどうかは分からないが。ところで、

(ある曲を歌う時に歌詞がメロディとずれたボケの後で)

塙「ちょっと途中、○ンポずれてたかなって……」

土屋「テンポがずれたんだよ!」

塙「ちょっと○ンポがずれたようで……」

土屋「お前の○ンポがずれたかどうかなんて知んないよ!」

塙「ちょっと今ゴメンなさい」

土屋「直さなくていいわ! そこのポジション直さなくていいわ」

このやりとりに、笑い飯M-1グランプリ2009で披露していた『チンポジからの影響を感じてしまうのは、僕だけだろうか?

他二組のネタに関しては、特に言うことはない。それぞれ非常に面白かった。ただ、ロケット団の漫才における、倉本のさりげない毒舌が地味に鬱陶しかったことだけは、書き留めておきたいと思う。毒を含んだ時事ネタ漫才のボケの後で、なんでガチな毒舌を漏らしてしまうのか……。そして改めて、恐らく彼らの漫才に影響を与えているだろう、田中裕二という存在に深く感心させられた。あの太田の毒を遮断するツッコミは、もうちょっと評価されるべきなのかもしれない。

しかし、今作の本当の見どころは、これら漫才ではない。今作の見るべき部分は、ライブの合間に行われた大喜利コーナーと、特典映像に収録されている「浅草三銃士トークライブ」における、彼らの浅草に対するスタンスだろう。先にも書いた様に、この浅草三銃士というユニットの目的は、恐らく“浅草の演芸を盛り上げていこう”というものだと思われる。ところが、彼らのスタンスは何処か、浅草の演芸を冷笑的に見ている。その中にいる人間にも関わらず、だ。思うに、浅草の演芸をネタ化することで、新しいお客さんに興味を持ってもらおうという算段なのだろう。が、その内容は、なかなかにハードコア。中でも、特典映像に収録されているトークは、とてつもなく生々しい内容で、なにやら切なさが止まらなくなってしまった。……実際のライブでは、これより凄い内容の話が飛び出していたらしいが、一体……(※内容が凄過ぎて大半のトークがカットされている)。

『ナイツ独演会』が浅草演芸の表面的な部分であるとするなら、この『浅草三銃士』は浅草演芸のちょっと薄暗い部分をすくい取った様な作品だ。きっと、実際の浅草では、これよりもディープでカオスな空間が広がっているのだろう。と、いうわけで、いつかナイツには十八歳未満購入禁止の『アサクサ・イン・ザ・ダーク』をリリースし、『ナイツ独演会』『浅草三銃士』と合わせて浅草三部作としてまとめてもらいたいところ。


・本編(82分)

「漫談(中津川弦)」「自己紹介(ナイツ)」「時事ネタ(ロケット団)」「旅行(Wコロン)」「大喜利」「野球漫才(ナイツ)」「ヒーローインタビュー(ロケット団)」「電話(Wコロン)」

・特典映像(15分)

「浅草三銃士トークライブ」