菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『小島よしおのギロスチョビ ~前へ前へ~』

小島よしおのギロスチョピ~前へ前へ~ [DVD]小島よしおのギロスチョピ~前へ前へ~ [DVD]
(2011/01/26)
小島よしお

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国民的少年漫画ドラえもんに、「王かんコレクション」というエピソードがある。

いつもの如く、スネ夫にコレクションの自慢をされたのび太は、家に帰ってドラえもんに「僕には自慢の出来るコレクションがない」とボヤく。そこでドラえもんが取り出したのは、“流行性ネコシャクシビールス”という道具。これを使い、かつてのび太がコレクションしていた王かんを流行らせようとする。その効果はてきめん。周りの子どもたちは、一斉に王かん集めに夢中になる。その様子を見て笑うドラえもんのび太。ところが、ビールスが思っていた以上に効き過ぎて……と、こういうエピソードだ。

広い世代に受け入れられ続けてきた『ドラえもん』は、その間口の広さが故に“子ども向けの単純な作品”という間違った認識をされているようなところがある。しかし、実際のところ、そのエピソードは時に社会風刺の度合いが強く表れる。この「王かんコレクション」など、まさにその典型的な作品といえるだろう。世間の流行に踊らされる人々と、それを見てこっそり嘲笑う流行の発信者たち。もしかしたら、僕たちが気付かないところで“流行性ネコシャクシビールス”は開発されていて、見知らぬ人たちがそれをばら撒き、昨今の流行を作っているのかもしれない。……と、そういう話ではないのだ、今回は。

この「王かんコレクション」の中で、こんなやりとりがある。王かんの数を自慢し合っている子どもたちのところへ、のび太たちがやってきて「数ばかり集めても意味がないんだよ」と言ってのける。大事なのは数ではなく、値打ちだと彼らは説明する。「切手だってそうだろ」「少ししかないものが、ねうちが高いんだ」と。そして彼らは、三河屋で八月十二日に唯一売れたコーラの王かんを取り出し、「世界じゅうさがしてもこれしかないんだ」と言ってのける。道具の力が働いているからって、随分な大口を叩いたものだ。まあ、その結果、ちょっとばかりとんでもない目に合うことになるのだが……。

さて。もし、この“流行性ネコシャクシビールス”によって、お笑いのDVDをコレクションすることが流行ったとする。きっと町中では、彼らが所有しているDVDの枚数を自慢し合っている声が聞こえてくる筈だ。そこへ僕は乗り込んで、のび太たちの様にこう口にするだろう。「数ばかり集めても意味がないんだよ」「少ししかないものが、ねうちが高いんだ」。続けて、こう切り出すに違いない。「僕の家には、小島よしおの単独ライブDVDが三枚もあるんだぜ!」

小島よしおの単独ライブDVDがリリースされるたびに、思う。「これはどういった人たちが購入しているのだろう?」と。彼は常に“一発屋芸人”として取り上げられながらも、その状態を長きに渡って持続させている驚異の芸人だが、正直なところ、ライブでのネタが評価されるタイプの芸人ではないと感じていたからだ。例えば、鳥居みゆきの様に濃密な世界観の舞台を構築することもなければ、カンニング竹山の様にテレビでは披露できない放送禁止な笑いを提供することもない。そもそも、テレビではイジられ役として活躍している彼の姿を見て、「ライブだからこその彼の魅力を体感したい!」と考える人が、どれだけ存在しているのだろう、と。

この想像はまったくの見当違いでもなかったようで、某ラジオ番組での小島自身の発言によると、前作『小島よしおのペチクリカ』はたった223枚しか売れなかったそうだ。一般的にお笑いDVDがどれほど売られているものなのかは分からないが、その番組によると「一万売れれば大ヒット」の世界らしい。なるほど。そう考えると、実に少ない。

その売り上げの低さに本来のリリース元であるコンテンツリーグも呆れ返ったようで、今回の単独ライブDVDはR&Cからリリースされている。R&Cといえば、知る人ぞ知る吉本興業専門レーベルである。主に、所属事務所の芸人の単独ライブや、吉本芸人が中心となって作られているバラエティ番組などをDVD化している。つまり、本来ならばコンテンツリーグという本丸からリリースされるべきDVDを、頭を下げてまでリリースしてもらったDVD、それが今作なのである。……なにやらドラマチックだ。思わず涙がこぼれそうになる。でも、そのDVDというのは、小島よしおの単独ライブDVD。果たして、それほどの価値がある作品だといえるのだろうか?

結論からいうと、今作の内容は過去の単独ライブDVDとそれほど変わらない。一発屋というポジションをキープしている自らを、過去のギャグを踏まえながら、ひたすら自虐的にネタとして昇華する。ある意味、正しい態度だ。ただ、それをライブで演じ、しかもDVD化し続けている意味が、やはり分からない。パッケージの裏には“近ごろ子供に大人気!”と、子ども向けに作っていることをアピールしているにも関わらず、オープニングからムッキムキのポールダンスを披露しているし。ネタが時々、一昔前だし(まさか2011年に桑田真澄ネタを観ることになるとは思わなかった)。……とはいえ、観終わる頃には妙な充実感を覚えるのも、また事実。エンディングで事務所の芸人たちとともに「前へ!前へ!前へ!」と突き進み続ける姿は、感動的ですらあった。恐らくは、気のせいなんだろうが。

自らの立ち位置をきちんと理解した上で、それに準じた内容のネタを作り続ける小島よしお。前へ前へと突き進もうとする彼は、果たして何処へ向かおうとしているのだろうか。……もとい、彼が進み続けている方向の先に、一体何が待っているのだろうか。というか、2011年も懲りずに単独ライブをやるのだろうか。そして、やっぱり懲りずに、ライブDVDをリリースするのだろうか。それはそれでいいんだけれど、あんまりやると本当に傾城傾国するんじゃないか。そういえば“おいらん”を演じたコントが……。


・本編(77分)

「ポールダンス」「オープニング」「ギャグヒットメドレー」「S-1への道」「ウキマスオ」「一発屋心理テスト」「おいらん」「消臭剤」「ボツギャグメドレー」「一発屋心理テスト2」「コジフの大爆笑」「写生大会」「コジゴ13」「前へ前へ」

・特典映像(3分)

みんなでおどろう!「よしおのアルプス一万尺」振り付け映像