菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『SWAのDVD -古典アフター-』

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(2011/03/09)
SWA(林家彦いち 三遊亭白鳥 春風亭昇太 柳家喬太郎)

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落語は、古くから伝えられている古典落語と呼ばれているものと、今の時代を生きている落語家がイチから作り上げている創作落語と呼ばれているもの、この二種類に分けることが出来る。『饅頭こわい』『時そば』など、一般的に落語と呼ばれているのは基本的に“古典落語”だ。とはいえ、どんなモノにでも発端があるように、“古典落語”と呼ばれているものも、かつては“創作落語”だった。幾千もの“創作落語”のうち、名作と呼ばれたものだけが“古典落語”として生き残っている、と考えれば分かりやすい。では、“古典落語”は全てまったく同じ内容なのかというと、そうではない。時代の変化、或いは演者の違いによって、その展開が大きく違ってくるということも多い。

創作落語”を広めるために旗揚げされたSWA(創作話芸アソシエーション)による公演『古典アフター』は、その名の通り古典落語のその後を創作する」というコンセプトの落語会だ。“古典落語”の中でも有名な『松竹梅』『厩火事』『愛宕山』といった落語のその後を、SWAの面々が個性豊かに創り上げている。ちなみに、SWAのメンバーは、春風亭昇太三遊亭白鳥林家彦いち柳家喬太郎の四名だが、白鳥師匠はスケジュールの都合で古典のその後を創ることが出来ず、自らの持ちネタである創作落語かわうそ島の花嫁さん』を披露している。それ自体は別にいいのだが、ならどうして企画にそぐわない落語を一本目に持ってきたのかという疑問が少し。……厄介モノは先に片付けてしまえ、という魂胆だろうか(余計な勘繰り)。

というわけで(どういうわけだ)、トップバッターは三遊亭白鳥かわうそ島の花嫁さん』である。演目からは想像もつかないだろうが、これは古典『大工調べ』を土台にした創作だ。元となっている落語は、大工の親方が与太郎に仕事を持ってくるのだが、仕事に必要な道具箱を大家に持っていかれてしまったというので、どうにかして返してもらおうと頼みに行くのだが、職人気質の粗雑な口調で逆に大家を怒らせてしまい、話がこじれてしまう……という内容。白鳥はその舞台を小さな島に置き換え、また登場人物も漁師の親方、中国人ヤン、ロシア人ママの三人に置き換えて展開した。……相変わらず、どうにもこうにもブッ飛んでいるな(※絶賛してます)。

続く柳家喬太郎は、結婚式での口上をテーマにした『松竹梅』のその後を描いた『本当は怖い松竹梅』を披露。式を失敗った梅さんが、式の後で行方不明に。皆で探し回っていると、今度は結婚式の花婿が刺される事件が発生してしまう。それら二つの事件の関係性を、御隠居が推理する……という、ミステリー色の強い作品だ。絶妙な語り口が特徴的な喬太郎師匠ならではの、本格的な内容に仕上がっている。手に汗握りながら楽しめる傑作といえるだろう。林家彦いちは、夫が本当に自分のことを愛しているのか気になる妻が、旦那の教えに従い、夫が最も大切にしている茶碗を壊す『厩火事』のその後を描いた『厩大火事』を語り上げる。茶碗を壊された夫がその仕返しに、旦那が本当にお前たちを信用しているかどうかを試す方法があると店の者に吹き込む、という内容になっている。何か一つのことが発端となって、まるでドミノ倒しの様にどったんばったんと大事になっていく様が、実にパワフルだ。それでいて、オチはとってもナンセンス。今作に収録されている落語の中では、最も従来の古典落語に近い雰囲気の一本といえるのではないだろうか。

トリを担当するのは、SWAのリーダーである春風亭昇太。演目は、旦那が遊びと称して谷に投げ込んだ小判を、幇間が無理やり取って帰ってくる『愛宕山』のその後を描いた『本当に怖い愛宕山。『愛宕山』のオチで、谷に小判を忘れてきてしまった幇間が、再び小判を取るために谷へ飛び込む。そこで旦那に縄を下ろしてくれと頼むが、どうも様子がおかしい。実は、旦那は銭のためにヨイショする幇間のことが嫌いで、過去に何人もの幇間がこの谷に捨てられ、狼のエサとなってきたのだ。この谷には商売の神様がいて、小判は賽銭、幇間は生贄となった。それだけを告げて立ち去った旦那。果たして幇間の運命や如何に。昇太師匠ならではの明るさと下らなさ、そしてそこはかとなく漂う哀愁がたまらない。創作落語の今を担う師匠の本領が発揮された一本といえるだろう。

さて、この『古典アフター』。当然のことながら、元となる古典落語について知っていないと、些か楽しみにくい。一応、高座前に昇太・喬太郎の“SWA落語研究会”による元ネタ解説が行われているので、知らなくてもそれなりには楽しめるが、それでも完全に楽しむことは出来ない。そういう意味ではハードルの高い作品といえるのかもしれないが、知っていれば間違いなく面白い。なんなら、今作を見るためだけに、先に元ネタの落語を聴いておくのも悪くないかもしれない。本編で他の古典落語の小ネタを放り込んでいる人もいるし、こういうきっかけで落語に触れてみるのもいいのではないだろうか。(ちなみに、喬太郎『松竹梅』と昇太『愛宕山』はそれぞれ当人による落語がCD化されているので、チェックしてみてもいいかもしれない。TSUTAYAにも割と置かれているし)

ところで、SWAは2011年12月に予定されている公演を最後に、活動休止することを宣言している。創作落語”という共通した目的を持っていながら、それぞれまったく違った味わいのある落語を演じ続けてきた四人だからこそ、行うことが出来ただろう名公演の数々。それらが今後、見られなくなってしまうというのは、実に勿体無い。とにかく、まだソフト化されていないSWAの公演を、なんらかの形で残してもらいたいところ……。


・本編(138分)

SWA落語研究会 その1

三遊亭白鳥かわうそ島の花嫁さん-大工調べ改作-』

柳家喬太郎『本当は怖い松竹梅-松竹梅その後-』

SWA落語研究会 その2

林家彦いち『厩大火事-厩火事その後-』

春風亭昇太『本当に怖い愛宕山愛宕山その後-』

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