菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

大久保佳代子劇団『村娘』

大久保佳代子劇団 「村娘」 [DVD]大久保佳代子劇団 「村娘」 [DVD]
(2011/02/23)
大久保佳代子光浦靖子

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書き出しからこのようなことを書くのは失礼に当たるのかもしれないが、どうしても書いておかなくてはならないことのように思うので、いきなり書かせてもらう。要するに駄目出しをするわけだが、これは別に本編がどうこうという話ではない。むしろ、本編とはまったく……とも言い切れないのだが……無関係な話だ。だから、これから書く文章については、読み飛ばしてもらっても構わない。つまり、読んでもらっても構わない。どちらでもいい。なんなら、読まなくてもいい。読んでもらうにこしたことはないが。

今作のパッケージ裏を見てもらいたい。大抵の場合において、お笑いDVDのパッケージ裏には、おおよその詳細が書かれている。例えば、このライブがいつどこで行われたものなのか、またその内容は大体どのようなものなのか……というようなことが、書かれているものだ。今作のパッケージ裏もまた然り。この舞台がいつ、何処で収録されたものなのか、またキャスト、特典映像や副音声の存在について書かれている。そのことについては、何の問題もない。だが、今作がどの様な内容なのか、そのおおよそのストーリーについて殆ど触れられていない点が、頂けない。

大久保佳代子劇団”名義でリリースされていることからも分かるように、今作に収録されているのはお芝居である。幕開けから幕引きまで、一つのストーリーに沿って、登場人物たちが動き回っている。そのストーリーについて、どうして触れていないのか。これがコントライブならば、まだ分からなくもない。複数のコントが演じられているライブには、当然のことながらストーリーが存在しない。その概要を書こうとしても、薄ぼんやりとしたイメージにまとまってしまうのがオチだ。でも、これはお芝居である。書けなかったということはない筈だ。

もしかしたら、ネタバレを防ぐために書かなかったのかもしれない。そういう了見ならば、まだ幾らか理解できる。だが、それを考慮しても、ストーリーに全く触れないというのはどうか。出演者だけでも魅力は伝わるということなのかもしれない。確かに、オアシズの二人は勿論、キングオブコメディ高橋健一や、ブサイク女性コンビとして人気上昇中のたんぽぽ、大人計画宮崎吐夢など、かなり興味の惹かれる面々が揃っている。だが、それでもやっぱり、ストーリーに触れていないのはどうか、という気持ちは収まらない。

どうして僕がここまでストーリーの説明にこだわっているのか、気になる方もいるだろう。実は、今作を購入するに当たり、どういう内容なのか事前に少しは知っておきたかったので調べていたのだが、公式の情報(※パッケージ裏と同じことが書かれている)からストーリーがまったく理解できなかったからだ。公式に発表されていた情報は“「ブスと卑屈はイコールなのよ!」娘なりに村を救おうとしたのです”という、あまりにも漠然としたフレーズのみ。この状況を見て、これは些か購買者に不親切なのではないかと思った次第である。否、明確に不親切だ。どれほど出演者が豪華でも、ストーリーとの相性はあるわけで。そこをきちんと確認したいのに出来ないという状況を、不親切と言わずして何を不親切と言おうものか!

……軽く書く予定だったのだが、思っていたよりも長い苦言になってしまった。以下、本編に触れていく。

 

大久保佳代子劇団”とは、人力舎所属の女性お笑いコンビ“オアシズ”の大久保佳代子を筆頭とした演劇ユニットである。舞台の作・演出を担当するのは、相方の光浦靖子。二人が中心となって、この劇団を動かしている。要するに、オアシズの単独ライブを大規模に拡大したもの、といったところか。出演者には人力舎所属の芸人たちが少なくないが、きちんとしたプロの役者も参加している。それ故に、練習の際はそれぞれ新しい発見があったりもしたらしいのだが……その辺りについては、副音声で実際に聴いていただきたい。相当楽しいから。『村娘』は2010年10月に上演された舞台で、大久保佳代子劇団にとっては二度目の公演となる。

物語は、ある古びた旅館での話し合いの場から幕を開ける。その旅館がある村では過疎化が進んでいて、村を出ていった若者たちは都会からまるで帰ってこない。このままでは人口が減る一方だ。そこで、村の代表者がその旅館に集まって、村おこしの案を出し合っていた。進行役を務めているのは、役場の男だ。彼は現在の状況について話を始めるのだが、ある人物がちょっと大きな声で「うん、うん、うん、うん」と相槌を打つために、どうもプレッシャーがかかって仕方がない。思わず話を止めてしまうと、「なに?え?五時過ぎた?お役所仕事?アフターファイブはだんまりってか?」とつっかかる。相槌を指摘すると、「あたしのせいで会議が進まないってか?」と開き直る。彼女の名はジュンコ。村の代表者の一人である旅館の女将の親戚に当たり、東京から帰って来たところだ。物語はジュンコを中心に進んでいく。いや、正しく言うならば、彼女は強引に物語の中心に据わり続ける。

どうしてジュンコが村の代表者会議に出席しているのかというと、彼女が村の数少ない若者であるから、と同時に、村を支えてきたヒナタ一族の一員だからだ。そこで話はジュンコのいとこ、つまり旅館の女将の娘であるアケミに向く。本来、ここにいるべきなのは、分家に当たるジュンコではなく、本家のアケミであるべき。それなのに、アケミは都会から帰ってこない。女将によると、大学でハワイに留学して、それ以来ハワイに夢中なのだという。そこに役場の男が食い付いた。この村を癒しで盛り上げて、日本中の疲れている女性たちを引き寄せようと。そこで、村の若い女性たちは、ハワイに詳しいアケミの元でフラダンスを習うことになる。時同じくして、虫を研究しているという若い学者が村にやってくる。この学者が非常にシュッとしていて、村の娘たちは気が気じゃない……。

都会からやってきた美しい女性が村の娘たちにフラダンスを教える。この構図はまさにフラガール』のそれだ。しかし、この物語には、『フラガール』に見られたようなドラマは存在しない。そこにあるのは、女性たちの卑屈に歪んだ世界だ。ブサイクな村の娘たちは数少ない美人であるアケミに対して、差別的な態度を取り続ける。中でも、ジュンコの態度は徹底的だ。その場からアケミがいなくなった途端、村の娘たちに対して悪い噂を流し始める。そして、娘たちがその話に乗り始めた途端、「へー、そうなんだー!?」と、まるで他人事のように振舞い始める。なんだか、どうしようもない。

しかし、その一方で、アケミの言動も胡散臭い。ジュンコと対比して良い人として描かれているアケミだが、彼女もまたイケメンの学者を狙っている。だからなのか、時たまではあるが、村の娘たちをダシにして、学者に近づこうとしているかのような行動を取る。こうなると、『フラガール』というよりも『大奥』を見ているかのよう。恐らく、女性ならば、今作における様々な女性的行動を見て、つい「あるある!」と口にしてしまうのでは。池谷のぶえによる女子着替えは必見。

この作品、一つのお芝居としては、粗く感じられるところが少なくない。特に葬式のシーン以後の流れは、あまりにも唐突かつ強引だ。それまで、小ネタを挟みながらも活き活きと活動していた登場人物たちが、急に脚本に合わせた堅い動きを見せ始めるために、何処となく窮屈さも覚える。全てはオチに繋がるための伏線なのだが、なんだか長距離走のラストスパートでバイクにまたがったかのような違和感。ただ、作・演出を担当する光浦靖子の描く、男が日頃はあまり目にすることがないだろう女性の内情が垣間見えるという意味では、この公演は非常に面白かった。ただ、こういうライブは、女性の方がずっと楽しめるんだろうなあ。男の自分としては些か羨ましい……ことはないな。うん。女性は大変だよ。うん。

あと、もう先でちょっと触れたけれど、特典の副音声が本編と同じくらい面白い。中でも、宮崎吐夢大人計画)がキングオブコメディ高橋健一の演技を絶賛したくだりは、なんだか身内を誉められているかのような不思議な感覚に陥った。別に関係者でもなんでもないんだけどね。傑作とまでは言わないけれど、一見の価値(と一聴の価値)はある!


・本編(81分)

・出演

大久保佳代子オアシズ)、光浦靖子オアシズ)、高橋健一キングオブコメディ)、いけだてつや、花輪淳一、川村エミコ(たんぽぽ)、白鳥久美子(たんぽぽ)、みはる、福田麻衣冨森ジャスティン池谷のぶえ宮崎吐夢大人計画

・特典映像(4分)

「オークション~旅立ち」「暗闇で不審な行動をとるジャスティン!」

・副音声

オアシズ宮崎吐夢、みはる、福田麻衣による全編コメンタリー