菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

GAG少年楽団『スクランブル交差点』

スクランブル交差点 [DVD]スクランブル交差点 [DVD]
(2011/03/23)
GAG少年楽団

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 誰もいない放課後の教室に、一人の男子生徒(宮戸)がやってくる。

 辺りに誰もいないことを確認した彼は、手に持っていた手紙をある机の中に忍びこませる。手紙はラブレター、机は彼が想いを寄せる中田さんの席だ。

「大好きな中田さんへ、この思い届きますように!」

 そこへ、クラスメイトの坂本がやってくる。現場を見られたくない宮戸は、思わず教卓の影に身を隠し、坂本の様子を伺う。

 一旦、自分の席に座った坂本は、再び立ち上がって中田の席に歩み寄る。そして、軽く机に触れ、ニヤリと笑う。更に、中田の席の周りをぐるぐると回り始め、おもむろに「中田!」と叫ぶ。

「もしかして、坂本君も中田さんのこと好きなんかなあ?」

 すると、今度は担任がやってくる。宮戸と同様、現場を見られたくない坂本は、傍にあったロッカーへとその身を隠す。

「誰もおらへんかー?」

 そう言いながら教室に入ってきた担任は、辺りに誰もいないことを確認すると、「中田ァ!好きやァ!」と、中田の席に思いをぶつける。

「オレは生徒を好きになってしまったダメな教師や……」

 そうつぶやいた途端に、担任はなんと中田が席に着いている設定で独り、授業を始める。

「次の英文を訳しなさい。えー、次は……中田。ん?お前、問題聞いてなかったんか、ドジやーっ!中田ァ、ホンマにィ……」

 しばらくその様子を眺めていた宮戸だが、妄想の世界で中田に接近しようとする担任の態度に少しずつ腹を立て始める。そして思わず、感情を露わに担任に飛びかかろうとするのだが、その直前に坂本がロッカーから飛び出してしまう。

 突然の坂本の登場に慌てふためく担任は、なんとかその場を誤魔化そうとする。

ところが次の瞬間、坂本は、

「中田はもっとドジな子でしょーっ!」

と叫び、先の担任と同様、中田への妄想を膨らまし始めるのであった。

 大阪NSC27期生の坂本純一・宮戸洋行福井俊太郎の三名によって結成されたお笑いトリオ、GAG少年楽団。僕が初めて目にした彼らのコントが、この『放課後』だった。

 一見するとこのコント、中田への妄想を暴走させている坂本と担任が徹底的にボケ役で、それを第三者として見ている宮戸が冷静なツッコミ役であるかのように見える。確かに、中盤までは、その通りに話が進んでいく。ところが終盤、このコントはとんでもない展開を迎え、どんでん返しのオチへと急転直下の動きを見せる。恐らく、何も知らずにこのコントを観た人は皆、その予想外の展開に驚き、思わず呆気にとられてしまうことだろう。

少なくとも、僕はそうなった。そして、このコントのことが、頭から離れなくなってしまった。まるでトラウマの様に。

 先に記した中盤までの展開を見てもらえば分かると思うが、この内容であれば、ここからどんでん返しのオチにする必要はない。この状況を覆すことなく、最後までバカバカしい展開にすることだって可能だった筈だ。むしろ、件のオチを用意することで、観客に悪い印象を与えてしまう危険も否めない。

 ところが、彼らはそうしなかった。そして、そうしなかったからこそ、少なくとも僕のの記憶にこのコントの存在が深く刻み込まれることになった。きっと、数多くの人が、僕と同じ体験をしただろう。彼らは危険を顧みず、こうすることが正しいと思ったことを恐れることなく実践し、そして成功させたのである。

ネタに対して余程の自信と覚悟が無ければ、出来ることではない。

スクランブル交差点』は、そんなGAG少年楽団にとって初めての単独作品だ。

 彼らの様なよしもと所属の若手芸人が単独作品をリリースする場合、作品のためにいわゆる“DVD収録用ベストライブ”を行い、その模様を収めることが多い。しかし、今作は単独ライブを収録した、れっきとしたオリジナル作品だ。ベストで終わらせるのではなく、今後もリリースを重ねていくぞ、ということなのだろうか。だとすれば、非常に嬉しいのだが。

 本編には七本のオリジナルコントを収録。更に、特典映像として、GAG少年楽団各メンバーがオススメするコントを一本ずつ収録している。下手な企画映像をダラダラと流すのではなく、ネタのみで構成したことに、コント師としての堂々とした態度を感じずにはいられない。ちなみに、先で取り上げた『放課後』は、今作の特典映像に宮戸のオススメコントとして収録されている。

 

 肝心の本編だが、コント自体は面白い。

 時折店にやってくる妙な男を撃退する方法を店長から教えてもらう『コンビニ』、月に一度行われる席替えの配置を決める部活動の様子を描いた『席替え部』、流行らないスーパーに客を引き寄せるためにプロのミュージシャンに店内BGMの制作を依頼する『スーパーオオキ』、二人の俳優が共演する舞台の役割で張り合う『顔合わせ』など、同じパターンのコントがまったくない。なのに、どれも面白い。驚くべきことである。

 中でも面白かったのは、『アメリカ人』というコント。

その内容は、弱小バスケ部のキャプテンが、アメリカからやってきた転校生が入部するという話を聞いて大喜びするのだが、そのアメリカ人がどっからどう見ても日本人で、思わず落胆してしまう……というもの。

爆笑オンエアバトル」ユーザーなら既に分かっていると思うが、この『アメリカ人』はかつて番組で披露されたコント『転校生』の改変版だ。一見すると暗くて大人しそうな転校生が実は明るく朗らかなヤツだった……という『転校生』に比べて、幾らか分かりやすい内容になっている。個人的には、『転校生』に見られた理不尽さが弱まっていて、少し勿体無くもあったのだが。

 それでも、既存のイメージを押し付けようとする乱暴さ、理不尽さを上手く笑いに昇華した傑作であることは、違いない。東京03っぽい設定なのに、彼らの味になっていたし。

 ただ、『スクランブル交差点』という作品としては、ちょっと惜しい。

 コントの一つ一つは確かに面白いのだが、それ故に全体的に散漫とした印象を受けるのである。……などと書くと、コントのクオリティを下げろと言っているように聞こえるかもしれないが、そういうわけではない。バランスを考えてもらいたい、ということだ。

 今作では、コントの幕間にコントとコントを繋ぐ映像を収録しているのだが、これもあまり効果的ではなかった。結局、コントに登場する人たちが同じ世界の住人であることを証明しているだけというのは、ちょっと勿体無い。この手の手法は、シティボーイズラーメンズなどの先駆けがいるのだから、彼ら先駆者に倣って、もっと凝った演出をしても良かったのではないだろうか。

(但し、聞くところによると、今作はライブの模様を完全収録しているわけではないらしいので、このレベルの演出で終わってしまったのも仕方が無いのかもしれない)

 とはいえ、先にも書いた様に、彼らのコントのクオリティは極めて高い。

 今はこの程度に留まっていても、いずれそのクオリティに見合った作品を生み出せるようになる筈だ。

 かつてのコント師たちが歩んできた道を、彼らもまた歩んでいるのだから。


・本編(69分)

「コンビニ」「席替え部」「スーパーオオキ」「定食屋」「アメリカ人」「顔合わせ」「嘘つき野郎」

・特典映像(15分)

宮戸オススメコント「放課後」

坂本オススメコント「カツアゲ」

福井オススメコント「家庭教師」