菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

シティボーイズミックスpresents『10月突然大豆のごとく』

シティボーイズミックス presents 10月突然大豆のごとく [DVD]シティボーイズミックス presents 10月突然大豆のごとく [DVD]
(2011/03/23)
シティボーイズ中村有志

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「芸人の芸は年を重ねるごとに成熟していくものである」という認識を持っている。この認識自体に、何も疑うべき点はない。どの様な芸であろうと舞台で演じられている限り、それは成熟し続けていく。但し、成熟することで、必ずしも素晴らしい芸に辿り着けるとは限らない。重要なのは、向かうべき方向である。これが正しく、また明確に定まっていなければ、如何に芸を成熟させたとしても良い結果には至らない……かもしれない。それはそれで、また別の方向性を見出す可能性もあるから、一概に否定はできない。結局のところ、全ては運次第なところがある。月並みな言い方だが、とにかく成熟に向かって走り続けていれば、上手くいけば素晴らしい芸を掴む可能性を得るということなのだろう。継続は力なり、と誰かが言っていたような気もする。

1979年に結成し、今でも定期的にコントライブを開催し続けているお笑いトリオ、シティボーイズは成熟から逃げ続けている奇特な芸人だ。演じるコントは一貫してナンセンス、即ち無意味な笑いにこだわり続けているが、その内容は年とともに変化している。その変化を維持するためか、ライブには毎年まったく趣向の違ったゲストが迎えられ、演出家も何年かに一度のペースで交代させられる。「観た後に何も残らない、残さない」を方針としている彼らのステージは、まるでティッシュペーパーの様に使い捨てられ、翌年には似ても似つかない新たなステージが構築されていく。その挑戦的なスタンスが故に、当たり外れもなかなかに大きかったりするのだが。

2010年10月に行われた公演を収録した「シティボーイズミックスPresents『10月突然大豆のごとく』」もまた、彼らの決して熟そうとしないコントを堪能できる一品だ。今回の公演にはラバーガールTHE GEESEの若手コンビ二組が、ゲストとして出演している。若手芸人がシティボーイズのライブにゲストとして招かれるのは、『だめな人の前をメザシを持って移動中』(2004)に出演したチョップリン以来、六年ぶりのこと。作家には、演出の細川徹シティボーイズ中村有志に加えて、ふじきみつ彦と向田邦彦の二人が参加している。ふじきは『そこで黄金のキッス』(2009)に続き、二度目の参加となる。

若手の二組が参加していることもあってか、今回の公演は例年以上に現代の笑いに寄っていた印象を受けた。例えば、きたろう演じる中年男が病院で医者に脳内の記憶フォルダを整理してもらう『脳内ハードディスク』や、大竹演じる男が訪れた説教することを目的としたバーの様子を描いたシチュエーションコント『叱りバー』、日常の中でとあるシチュエーションに陥った二人の様子を語り上げるコロス(劇の背景や要約を伝える役割)の大袈裟な演技がたまらない『コロス』などは、今の時代を生きる若手芸人たちが演じても違和感がないほど、現代的なセンスに溢れていた。

結成三十年目を迎え、すっかり大御所の風体を成してきた彼らに対し、何処となく古臭いイメージを持っている人も少なくないのではないかと思う。確かに、彼らが若手と呼ばれていた時代は遥か昔のことで、また彼ら自身もすっかり老人と呼ぶに相応しい年齢だ。しかし、そのコント観は決して時代から離れることなく、徹底して今を見つめている。“ナンセンスの王国”シティボーイズ。その牙城は未だに崩される気配も見せず、若手コント師の前に君臨し続けている。若手負けるな。


・本編(約116分)

「十月突然」「脳内ハードディスク」「丘の上の小さな家」「重厚な人たち」「年上女房」「叱りバー」「さておきクラブ」「コロス」「アフリカに行く船」「BONUS TRACK」

・特典映像(約9分)

幕間未公開映像:「大竹まこと」「きたろう」「斉木しげる