菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

「世界鳥居紀(奇)行 IN タイ」(2011年5月25日)

世界鳥居紀(奇)行 IN タイ [DVD]

世界鳥居紀(奇)行 IN タイ [DVD]

 

他の同性芸人と群れることなく我が道を突き進み続ける女性芸人、鳥居みゆき。本作は、彼女が初めて訪れるタイの魅力を伝えることを目的とした海外ロケーションバラエティDVD……になる筈が、彼女の自由奔放な言動にスタッフが振り回され、作品としての形が完全に崩壊していく様を描いたドキュメンタリーDVD……という体の、バラエティDVDだ。なんだか、ややこしい。要するに、テレビ番組などで見られる鳥居みゆきの芸風を、こともあろうか国外に放つというコンセプトの作品である。なにやら恐ろしい。

本編を再生してみると、タイを訪れた鳥居みゆきのプロモーションビデオが流れ始める。オープニングかと思って流し見していると、映像の終了とともにスタッフロールが。どうやら、このオープニングの様に見えた映像が、本作の本編であるらしい。パッケージ裏に表記されている収録時間を見ると、3分とある。短いな、おい。一方、特典映像を見ると、69分とある。長いな、おい!

改めて、特典映像を再生してみると、今度はお詫びの文章が流れ始める。なんでも、本作は本来もっと長尺の作品になる予定だったのだが、現地でのハプニングによって3分という超短時間の作品に収まらざるを得ない状況になってしまったのだという。そして、この特典映像には、その理由が収録されているという。……つまり、本作は『有田哲平監督作品「特典映像」』と同様に、本編ではなく特典映像がメインとなっている作品である様だ。

そうして始まる特典映像という名の本編では、お馴染みの鳥居みゆき節が炸裂。出発前に空港でパスポートが見つからないからと旅行カバンを開けると、“多い日も安心”が大量に出てくる。タイに到着して早々、ナイトマーケットに繰り出すと、お腹が空いたからホテルの“どん兵衛”が食べたいと駄々をこね始める。ワット・アルンという大仏塔に上れば、これ以上は上りたくないからと「(ここから先は)だまし絵です!」と堂々たる嘘を吐く。まさに、テレビで見る鳥居みゆきの奔放ぶりが、そのまま収められているかのようだ。

しかし、時間が経つにつれて、だんだんと映像に違和感が生まれ始める。発端となっているのは、鳥居が泊まっているホテルの部屋が、明らかに鳥居だけの手では処理できない程に改造されてしまっているシーンだ。確かに、白を基調とした部屋を勝手にピンクで塗り替える……という点だけを考えると、如何にも奔放な鳥居ならではの行動であるように見えなくもない。だが、そこから漂う“作り込んだ感”が、これまでの鳥居による奔放な言動とどうしても一致しない。それまで、鳥居の行動に振り回されているように映っていたスタッフが、共犯なのではないかという疑念が浮上してくる。面白い動画を見ている最中に、少しも興味がない宣伝広告が急に上がってきたような感覚だ。ろくでもない。

この“作り込んだ感”が、よりによって最後の最後で大爆発する。どうせ爆発するなら、鳥居の面白さが爆発してもらいたかったのだが。何が悲しくて、何処の作家が考えたかもしれない、ベタでしょーもないエンディングを見せられなくてはならないのか。……いや、問題なのは“作り込んだ感”よりも、その台本が鳥居の了見とズレていることなのかもしれない。鳥居だからこそ生み出せる世界観を完全に無視して、市井のバラエティ番組でも見られるような展開で茶を濁しているからこそ、こういう不満が残るのだろう。後半の展開だと、鳥居じゃなくても成立するからな。逆に言えば、前半のモチベーションを保っていれば傑作に成り得たのではないかと。勿体無い。実に勿体無い。


・本編(3分)
・特典映像(69分)
「本編メイキング」