菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『バカリズムライブ ピンチ!』『バカリズムライブ サスペンス』『バカリズム案3』

2011年4月6日。この日、バカリズム名義によるDVD作品が三作同時リリースされた。僕もこれまで様々な芸人のDVDリリース情報を目にしてきたが、まったく独立した作品を三作同時リリースしたという例は、今までに無かったように記憶している。ちなみに、これら三作品は全て2010年に行われたライブをDVD化したものらしい。一年のうちに三度も単独ライブを行うのは、そう簡単なことではないだろうなあ……と思っていたら、なんと昨年末にリリースされた『バカリズム案2』もまた、同じ年に行われたライブをDVD化したものだという。つまり、バカリズムは2010年に(うち二回は“特別編”と銘打っているとはいえ)四度の単独ライブを行っていることになる。……ヒマなのか?実はヒマなのか?

話が脱線しつつあるが、要するにバカリズムがDVD作品を三作同時リリースしたものだから、感想が書きにくくて仕方がないという話である。……ん?そういう話はしてなかったって?……そんなことはどうでもいい。通常、僕がお笑いDVDのレビューを書くときは、そのDVDでメインとなっている芸人さんの気質を掘り下げていくことを重視しているのだが、一気に三作品もリリースされると、それが面倒になって仕方がない。特にバカリズムは、そのネタのクオリティが一定に保たれているので、それがより面倒だ。どうして一度に出しちゃったんだよ、バカリズム!ファンのことばっかり考えて、DVDコレクターのことを少しも考えちゃいないよ!(注:正しい判断です)

と、いうわけで、今回の記事ではそれらバカリズム三作品を一気にレビューしていきたいと思う。とりあえず“一気に”と書いてあるが、まあ、途中で脱力してしまう可能性も否めないので、その辺りは御了承いただければ。

 

『バカリズムライブ ピンチ!』(2010年5月)

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(2011/04/06)
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得意のスケッチボードネタを封印し、見事に決勝の舞台で散った「R-1ぐらんぷり2010」直後に行われたライブを収録。当時、バカリズムは自らが本当にやりたいネタとして披露した『正義感』(『クイズ』に収録)を彷彿とさせるコント『絶体絶命ピンチマン』が、非常に面白い。その内容は、敵と対面したピンチマンが、そのピンチから脱しようとあれこれ策を練るのだが、全て上手く行かない……というもの。ピンチの内容がなんだか庶民的で、「あるあるネタ」としての見方も出来るかもしれない。『正義感』に比べて、実に分かりやすくて面白い内容となっている。「オレだって別に、こういうネタも作れるんだよ」という意志の表れだろうか。

その他にも、三者面談で生徒の現状を野球に例えようとする教師を演じた『ノーツー』、電車内でウ○コが我慢できなくなってきた中年の危機的状況を描いた『大ピンチ』、変なイラストにアテレコ風景を吹き込むだけの『家族』など、ヘンテコで印象的なネタが多い。先の公演『クイズ』のクオリティを良い意味で引き継いだ秀作といえるだろう。本編66分、特典映像11分。

『バカリズムライブ サスペンス』(2010年11月)

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(2011/04/06)
バカリズム

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全国のピン芸人たちがそろそろ「R-1ぐらんぷり2011」を視野に入れたネタを完成させなくてはならない、けれども既にR-1ぐらんぷりへ出場しないことが決まっていたバカリズムにとっては特に何を意識するでもなかっただろう時期に行われたライブを収録。『ピンチ!』と比べて分かりやすいネタが少なくなり、変わりに空気感の異様さで笑いが起こるタイプのネタが増えたような印象を受ける。コンビ時代のバカリズム、或いはピンになって間もない頃のバカリズムに戻ったライブといえるのかもしれない。良くも悪くも、バカリズムの普段は見せない剥き身の部分が出ているような。当人もそれを自覚しているのか、幕間ではイラストネタや初期の傑作『○○官能小説』シリーズなどの無難なネタが公開されたらしい(これらの映像は特典映像に収録)。

空気感で笑わせているネタが多いためか、特別印象に残っているネタはない。ただ、どのネタも、漠然と面白い。怖い話と日常の雑談が交互にせめぎ合う『急カーブ』、教育図書を元に書かされた反省文を読みあげる小学生の無様を見せる『読書反省文』、擬音ばっかりの会話『ギオオオオオン!!』など、どれも漠然と面白い。しかし、この漠然とした面白さこそ、元来のバカリズムの面白さなのである。せっかくだから、コンビ時代のベストネタを収録した『バカリズム ~フルーツ~』と合わせて鑑賞するのも、面白いかもしれない。なんとなく似ているのが分かるから。本編67分、特典映像12分。

ところで余談だが、この『ピンチ!』『サスペンス』から、バカリズムライブの音楽を担当していたオクムラアイコが降板、今回からRAM RIDERが音楽を担当している。ポップなオクムラサウンドが好きだった身としてはまことに残念だが、RAM RIDERが紡ぎ出すサウンドもなかなか良い。

『バカリズム案3』(2010年8月)

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(2011/04/06)
バカリズム

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お笑いブームの終了をまだ感じられなかった夏に、トロ火の様なテンションで行われたライブを収録。これまでの『バカリズム案』を観たことがある人ならば分かると思うが、基本的なコンセプトは過去のそれと殆ど同様。即ち、バカリズムが思いついたことを、そのまま観客(ないし視聴者)に発表するという形式のライブである。ただ、今回のライブは、過去の『バカリズム案』に比べて圧倒的に人を食った内容になっている。なにせ、最初の『問題に関する案』が、「パンはパンでも食べられないパンは?」というベタななぞなぞを回答するに至るまでの思考を事細かく解説するという……ああ、下らない。

これ以後も、複数の人間で料理を食べている時に残った最後の一つをどうすべきか明確化してみたり、バカリズム自身が福岡出身だというだけで「え?博多?」と聞かれることから「福岡出身の人間のうち博多出身者である確率」を割り出してみたり、日めくりカレンダーはカレンダーとしての役割を果たしていないのではないかと分析……するフリをして、別府温泉を堪能してみたり。実に無意味なことばかりやっている。……ていうか、バカリズムの小さなストレスを掘り下げて、ネタとして昇華しているだけの様な気がしないでもない。そういえば、先の『バカリズム案2』でも、その傾向があったような。漫談としての趣が強いライブなだけに、素の部分が剥き出しになりやすいということなのだろうか。本編65分、特典映像22分。

以上、お粗末でした。